最新記事

韓国

済州島に逃れてきた一握りのイエメン難民にヒステリーを起こす韓国人

South Korea Is Going Crazy Over a Handful of Refugees

2018年8月7日(火)16時30分
ネーサン・パク(ジョージタウン大学非常勤教授)

イエメンの首都サナアとサウジアラビア国境の間にある難民キャンプで Ali Owidha-REUTERS

<韓国社会に人種差別意識があるのは間違いない。わからないのは、なぜ最も激しく反発するのが「フェミニスト」や「知識人」なのかということだ>

内戦が続くイエメンを逃れたイスラム教徒の難民たちが、韓国に到着している。2018年に入ってから韓国の済州島に到着した難民は561人。このうち亡命を希望して難民申請をしたのは552人だ。ドイツが2015年に受け入れた難民の数が約89万にのぼることを考えれば、この数字は微々たるものだ。それにイエメン難民たちは島に閉じ込められているため、韓国社会一般と関わり合いを持つこともなければ、国民と雇用を奪い合うことも、国民に脅威を及ぼすこともない。

それでも国民は、これら少数の難民にヒステリックな反応を示し、政府に対して難民の受け入れ拒否を求める請願には70万を超える署名が集まった。2017年に韓国大統領府が公式ウェブサイト上に請願受け付けページを開設して以降、最も多い数だ。

文在寅大統領率いる政府の対応は迅速だった。済州島は観光客を呼び込むために、大部分の国からの訪問者についてビザなし(査証免除)での入国を許可しているが、6月1日、政府はイエメンを数少ない「ビザ免除対象外リスト」に追加(同リストにはほかにアフガニスタン、イラクやコソボが含まれる)。事実上、これ以上の難民の流入を食い止める措置だ。政府はまた、難民申請者の本土への渡航を禁止した。

韓国法務省の朴相基長官と韓国大統領府のメディア秘書官チョン・ヘスンは8月1日、この請願を受けての対応を発表。この中で、韓国には難民保護の国際的な責務があることを改めて確認した。

「リベラル」政権の保守的な対応

大統領府のライブ放送に出演したチョンは、現在の韓国政府の前身である大韓民国臨時政府は、日本の植民支配から逃れた難民たちが上海に樹立した亡命政府だったと指摘。同じく放送に出演した朴は、イエメン難民たちは合法的に韓国に入国したとして、保護の正当性を強調した。

その上で朴は、韓国は難民に対する国際社会の基本的責務について定めた「難民の地位に関する条約(国連難民条約)」から離脱するつもりはなく、また済州島のビザ免除政策を廃止するつもりもないと言明。また国連の提言に従い、地域・言語の専門家を配した難民のための特別法廷の設置を提案した。

一方で朴は、難民排斥を訴えるヒステリックな要求に歩み寄りの姿勢も見せ、薬物検査や犯罪歴審査などを行って「偽造難民」を一掃する取り組みを行うと語った。また「違法行為を助長する難民ブローカー」に対する処罰を厳格化することも明らかにし、さらにビザ免除の対象外とする国に、エジプトやパキスタン、ソマリアなどさらに12カ国を追加した。こうして朴は、難民たちに法律上の権利があることを強調する一方で、「社会秩序に背く」難民は国外追放となる可能性もあると強調した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中