最新記事

中国

中国政局の「怪」は王滬寧の行き過ぎた習近平礼賛にあった

2018年8月6日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

この辺りから中国共産党内からも「いくらなんでも、度が過ぎやしないか」、「これでは党規約で禁止している個人崇拝を煽ることになる」「文革の肯定につながりはしないか」といった数々の疑問の声が出始めたのである。筆者自身、中国政府高官から直接「行き過ぎだ」という憂慮の声を聞いている。

「墨かけ女子事件」が起きたのは、それから間もない7月4日のことだった。

昨年の第19回党大会以来、中共中央のイデオロギー宣伝を担当しているのは、言うまでもなく王滬寧。習近平の権威を高めてあげようと邁進していたことが裏目に出た格好になる。

映画「すごいぞ、我が国」で知識人の間に不満の素地が

そうでなくとも、今年に入ってから、他の出来事で知識人の間に不満がくすぶり始めていた。その中にはもちろん、少なからぬ中国共産党員がいる。

それは映画「すごいぞ、我が国」が上映されたことにある。

今年3月5日からの全人代(全国人民代表大会)開幕に合わせて、3月2日に封切られた。これは昨年、CCTVで報道された連続ドキュメンタリー番組「輝煌中国」を一つにまとめたものだが、初日から7億円を超える興行収入があり、どこも満席だとCCTVは自画自賛していた。

それもそのはず。チケットは強制的に買わされた「組織的動員票」だったのである。

そこに「落とし穴」があった。

中国共産党員の中の知識層も観に行かなければならない。党員でなくとも、知識層はどこかの組織に所属している。普段なら観なければ済むが、強制的に観に行かせられたために不満が充満した。

「中国人民の知的レベルをバカにしているのか」

「こんなお粗末なものを無理やり観させられて、かえって"高級黒"を感じた」("高級黒"とは「相手をすごく褒めているのだが、実は讃辞を通して暗に相手を批判する風刺手法」を指すネット用語)

「お粗末としか言いようがない」

など、数々の不満がネットにも充満した。

こんな素地の中に出てきたのが、上述の研究課題「梁家河大学問」だったのである。知識人の不満が表面化しそうになってきた時に、「墨かけ女子事件」が起きたのだ。

「7月12日」に習近平自らが過度の個人崇拝にストップをかけた

習近平は慌てたにちがいない。

今年7月12日、なんと、習近平自らがこの研究課題「梁家河大学問」を推進するのを禁止したのである。

反動を招いて、それがきっかけで自分の威信に傷が付いてしまうと警戒した習近平が、「蟻の一穴、天下の破れ」を防ぐために、あわてて個人崇拝の行き過ぎにストップをかけたと言っていいだろう。

一党支配体制を維持するために始めた個人崇拝が、結局は一党支配体制を潰す。そのギリギリの線まで来ていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、TikTok禁止法の60─90日間施行

ワールド

ガザ停戦合意を確認、トランプ氏チームと協力で合意=

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、CPI受けインフレ懸念緩和

ビジネス

米国株式市場=上昇、CPI受けインフレ懸念が緩和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローンを「撃墜」し、ウクライナに貢献した「まさかの生物」とは?
  • 4
    韓国の与党も野党も「法の支配」と民主主義を軽視し…
  • 5
    【随時更新】韓国ユン大統領を拘束 高位公職者犯罪…
  • 6
    中国自動車、ガソリン車は大幅減なのにEV販売は4割増…
  • 7
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 8
    ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
  • 9
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 10
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」
  • 4
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 5
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 6
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 7
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 8
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 9
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 10
    古代エジプト人の愛した「媚薬」の正体
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中