最新記事

中国共産党

中国人留学生は国外でも共産党の監視体制に怯えている

RESISTANCE AND RISK

2018年8月1日(水)18時30分
チウ・チョンスン(仮名、アメリカ在住の活動家)

憲法を改正して自身の任期制限を撤廃した習を批判するビラ。英語版と中国語版があり、各地の大学キャンパスに貼られている Courtesy of Xi's Not My President (@STOPXIJINPING)

<共産党の監視の目をかいくぐってひそかに始まった「反・習近平」運動が世界各地のキャンパスに拡散したが......>

カリフォルニア大学サンディエゴ校の学生ラウンジの掲示板に貼ったビラを、私は最後にもう一度確認した。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席の顔写真の上に、赤い文字で「ノット・マイ・プレジデント(私の国家主席ではない)」と書いたものだ。

既に夜も更けていたが、私は誰にも見られないようパーカーのフードをかぶって顔を隠していた。中国本土出身の私は、異国の地にいても当局の抑圧から逃れられないからだ。

中国共産党は国境を越えて監視と圧力を続けるすべを熟知している。欧米に暮らしていても、政府に逆らう行動は自分自身と祖国にいる家族の身を危険にさらすことを意味する。

この数日前の2月25日、中国共産党中央委員会は国家主席の任期を「2期10年まで」とする憲法条文を削除する憲法改正案を提案した。3月11日、改正案は全国人民代表大会で採択され、2期目が満了する2023年以降も習が権力を持ち続ける基盤が整った。

憲法改正のニュースは中国のソーシャルメディアを騒がせ、いら立ちや衝撃、無力感を訴える書き込みがネット上にあふれた。だが、それもわずか数時間のこと。当局の検閲によって、そうした書き込みは一斉に削除された。

だから、私は友人と2人で行動を起こすことにした。欧米に留学中の私たちは、習が人権活動家を弾圧し、香港の民主化運動を骨抜きにし、毛沢東時代を想起させる個人崇拝を復活させる様子を幻滅しながら見守ってきた。だが今こそ、祖国で沈黙する同胞に代わって、国外に住む私たちが声を上げるべきときだ。

身元がばれたら就職できない

私たちはツイッターで「ノット・マイ・プレジデント」のアカウントを作り、世界各地の大学で学ぶ中国人学生にビラを印刷してキャンパスに貼るよう呼び掛けた。1カ月ほどでコーネル大学やロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、シドニー大学、香港大学など30以上の大学の学生が運動に加わり、国家元首の「終身制」に反対を表明。こうした活動は複数の欧米メディアにも取り上げられている。

ただし、声を上げる際には細心の注意が必要だ。大学構内にビラを貼る行為は民主主義国家では当たり前の政治活動だが、中国人学生にとっては危険を伴う。中国共産党を公に批判したことが露見すれば、帰国後のキャリア形成に多大な影響が生じ、就職や昇進の道は閉ざされるだろう。

中国当局は国外で政治的発言をする学生の家族に嫌がらせをしたり、帰国者を取り調べたりすることでも知られている。外国で身柄を拘束して無理やり帰国させることさえある。

そこで私たちは注意深く、段階を追って活動を広げていった。まず安全なコミュニケーションの手段を構築。中国語話者の間で最もよく使われている携帯チャットアプリの微信(WeChat)は、中国当局に監視されているため使用しないことにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」

ビジネス

ECBの12月利下げ幅巡る議論待つべき=独連銀総裁

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中