対米通商交渉、切り札として日本が輸入拡大するLNGは「国内需要先細り」
国内需要は先細り 原発政策との矛盾
ところが、大きな障害として、LNG需要の減少傾向が意識され始めた。
1つは、国内における人口減少や省エネに伴うエネルギー需要減少などが要因として浮上している。LNGの輸入数量はここ数年減少傾向にあり、今年上期は前年比2.7%減となっている。
さらに日本政府が進めている原子力発電所の再稼動の結果、LNG需要がさらに減少する可能性が高まっている。
2011年の東日本大震災の発生後、稼動している原発はゼロになったが、18年8月末時点で、再稼動は7基になる見込みだ。政府の計画では、30年時点で30基程度の再稼動が見込まれている。
JOGMECの田村康昌・主任研究員の試算では、原発1基の稼働によりLNGは80─100万トンが不要となる。
30基の稼働を前提にするとLNG需要は6200万トンまで減少、昨年の輸入量の4分の1が不要となる計算だ。
JERAの垣見祐二社長は、16年のロイターとのインタビューで「政府の長期LNG需要見通しをベースに考えれば、2030年までにLNGの輸入長期契約を最大で42%減らす可能性がある」と述べていた。
このまま米国産LNGの輸入拡大を継続した場合、日本国内に過剰なLNG在庫が積み上がりかねない。
そこで政府が注目しているのが、経済産業省が16年に策定した「LNG市場戦略」。米国産LNGの輸出先としてのアジア市場の拡大や、事業者の転売価格の安定確保を支援しようとしている。
17年からは米国との協力体制も構築。政府関係者の1人は、トランプ大統領によるLNG輸出拡大の意向が、こうした動きに影響していると認めている。
今年からは官民で100億ドル規模のファインスの受け入れ候補の企業調査も始まり、アジア各国のLNG関連の官民技術者などを対象にした研修会も実施している。
ただ、アジア市場拡大に伴い日本が米LNGを転売用に購入しても、貿易統計上の輸入には計上されない。「日本の対米貿易黒字の削減につながらないことは承知している」(政府関係者)と打ち明ける。対米輸入拡大への貢献がどの程度、日米通商協議で説得材料となるのか。政府自身が確信を持てず、手探りで交渉のテーブルに臨むことになりそうだ。
(中川泉 月森修 編集:田巻一彦)
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