「BRICS+」でトランプに対抗する習近平──中国製造2025と米中貿易戦争
言論弾圧をしている国が、世界のトップリーダーとして君臨するなどということは、あってはならないのである。それは「危険」でさえあると言っても過言ではない。その意味でのトランプの「直感」は正しいのではないだろうか。
習近平には、負ける気はない
しかし習近平にしてみれば、「2025」を譲歩するわけにはいかない。ここからは一歩も引かないというのが習近平の覚悟だ。だから、トランプが吹っかけてきた高関税額に対して、中国も必ず、ほぼ同額のお返しをしている。負ける気はない。
なんと言っても中国の対米輸出ハイテク製品の90%は、アメリカなどから輸入したパーツで組み立てられているので、トランプがやがて音を上げるだろうと待っている。毛沢東の「持久論」まで持ち出してくる始末だ。
おまけに中国の国家海関(税関)総署が8月8日に発表した7月の貿易統計によると、中国の対米輸出が加速しており、対米黒字は前年同月比11%増の280.89億ドル(約3兆1000億円)になったとのこと。トランプによる対中高関税が何度も発動されているにもかかわらず、今のところ、そう落ち込んでいるわけではない。
また米議会上院は7月26日、1660品目の製品に関して輸入関税を引き下げる(中には撤廃する)法案を可決した。しかしその1660品目のうち、半数ほどが中国製品だとのこと。下院でも今年に入って類似の法案が可決しているため、相違点を調整して一本化するそうだ。中国政府の通信社、新華網ワシントン支局が伝えた。
日本ではあまり伝えられていないが、中国では嬉々として伝えている。
なお、8月6日にコラム<中国政局の「怪」は王滬寧の行き過ぎた習近平礼賛にあった>を書いたのは、「習近平降ろし」とか「権力闘争激化」などという、日本人を喜ばせる(事実とは異なる)情報ばかりを発信していると、上述のような習近平の真の狙いと中国の現実が見えなくなってしまい、日本が損失を蒙るからだ。
米中貿易戦争のゆくえがどうなるかは何とも結論じみたことは言えないが、少なくとも習近平の狙いと野心だけは見落とさないようにしたいものである。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。