最新記事

世界貿易戦争

米中貿易戦争、裏ワザの超法規的「報復」を中国がもくろむ

CHINA’S NEXT STEPS

2018年7月24日(火)11時00分
ビクター・ファーガソン(オーストラリア国立大学政治・国際関係大学院博士課程学生)

習近平率いる中国政府は「やられたらやり返す」姿勢を明確にしてきた FRED DUFOUR-POOL-REUTERS

<アメリカの相次ぐ追加関税に対して中国政府が(たぶん)準備を進める、超法規的な5つの反撃方法。トランプが宣戦布告した貿易戦争が世界経済にどんな災厄をもたらすかを検証した、本誌7/24発売号「世界貿易戦争」特集より>

米中貿易戦争が本格化しつつある。

米政府が、中国からの輸入品500億ドル相当に25%の関税をかけると発表したのは6月15日のこと。すると中国政府は翌16日、同規模のアメリカ製品に関税をかけると発表した。すかさず18日にドナルド・トランプ米大統領は、さらに2000億ドル相当の中国製品に10%の関税をかけると言い出した。

そこで中国政府は困ってしまった。同規模の関税をかけて報復したくても、そもそも中国には計2500億ドル相当のアメリカ製品が輸入されていない。そこで中国商務省は翌19日、「量的かつ質的な措置」を取って、アメリカに「反撃する」と気勢を上げた。

ここでいう量的措置が、関税措置の拡大と、場合によっては輸入品の数量制限を意味することは明らかだ。だが、質的措置の意味するところは、いまひとつはっきりしない。そこで参考になりそうなのが、中国が近年、自らの要求を諸外国に押し付けるために取ってきた5つの措置だ。

第1に、中国は輸出入品の通関を遅らせることで、相手国に損害を与えてきた。これは貿易戦争では決して新しい手法ではない。例えばフランス政府は1982年、日本製ビデオデッキの通関を内陸部のポワチエ税関に限定することで、事実上その輸入を制限した。

中国はこの手法を政治目的のために駆使してきた。2010年には、中国の反体制活動家にノーベル平和賞の授与が決まったことに抗議して、ノルウェー産サーモンの輸入を制限。2012年には、フィリピンと南シナ海の領有権問題で衝突したことに絡んで、フィリピン産バナナの通関を遅らせた。バナナは港で腐ってしまったという。

そして今回、中国はこれを貿易戦争の手段として本格的に利用しつつある。既にアメリカ産ウイスキー、豚肉、自動車などの商品が、中国の税関で足止めされている。今後、両国の貿易戦争がエスカレートすれば、対象品目はさらに増える恐れがある。

スターバックスも標的に?

中国が取り得る第2の質的措置は、中国に工場や小売りチェーンを展開する米企業に対する締め付けだ。中国政府は保健・安全性検査から、贈収賄捜査や税務監査まで駆使して企業活動を妨害してきた。例えば、2016〜17年に韓国政府が中国の反対を押し切ってTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を決めると、用地を提供したロッテグループの系列の、中国にあるロッテマート約90店舗が、防火基準違反の恐れがあるとして一時閉店に追い込まれた。

現在中国に展開しているウォルマート20店舗も同じような運命をたどるかもしれない。フォードやゼネラル・モーターズ(GM)といった自動車メーカーの工場も標的になり得る。


180731cover-200.jpg<本誌7/31号(7/24発売)「世界貿易戦争」特集では、貿易摩擦の基礎知識から、トランプの背後にある思想、アメリカとEUやカナダ、南米との対立まで、トランプが宣戦布告した貿易戦争の世界経済への影響を検証。米中の衝突は対岸の火事ではない>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中