フィリピン今度は副市長暗殺 1週間で首長3人殺害の異常事態に
複数犯が車両の進路ふさいで射殺
そして7月8日午後3時15分ごろ、トゥレス・マルティレスのルシアノ地区にある韓国病院前の路上からジムに向かおうとルビガン副市長が黒いトヨタハイラックスに乗り込んだところ、前方の進路をふさぐように黒い車両が停車し、次いで横づけする別の車も近くの監視カメラに映っていた。その後複数の銃弾が横付けされた車から発砲され、助手席にいたルビガン副市長は即死状態、運転手の男性(50)も死亡、後席の警護員は病院に搬送されたが重体という。
この犯行の様子や、銃撃後に車内のルビガン副市長に取りすがって泣き叫ぶ女性の様子は周囲にいた人らのスマートフォンの動画や監視カメラで記録され、動画サイトにアップされている。
連続首長殺害事件 真相は闇の中
1週間のうちに立て続けに起きた市長、副市長の白昼堂々、公の場所での暗殺はフィリピン社会とドゥテルテ政権に大きな衝撃を与えている。
自らの関与が取りざたされながらもドゥテルテ大統領の麻薬関連犯罪の取り締まりには一定の理解を最近は示していたとされるハリリ市長、ドゥテルテ大統領と同じ政党のボテ市長、そして汚職撲滅に力を入れていたとされるルビガン副市長。
3件の事件の共通点をみてみると、いずれもルソン島であること、スナイパーによる射殺あるいは待ち伏せしての射殺という銃による荒っぽい手口であること、さらに犠牲者がドゥテルテ政権にとって必ずしも「好ましくない人物」ではないこと、などから、現時点では具体的ではないものの、反ドゥテルテ色を強めている麻薬組織や犯罪組織の関与が可能性として浮上している。
フィリピンでは政敵を倒す方策として殺害は往々にしてみられる「暗殺文化」のようなものが厳然として今でも存在していることは事実である。そしてドゥテルテ大統領による強硬な麻薬犯罪取り締まりが始まって以来、これまでに15人の市長・副市長が殺害されている(副市長は5人)。
この中には麻薬犯罪あるいは麻薬犯罪組織に関連した市長や副市長、逆に麻薬犯罪や組織に強硬な姿勢で対策に臨んだ市長、副市長も含まれているとされている。
いずれにしろ殺害の犯人や犯行組織が逮捕、摘発された事例はこれまでのところほとんどなく、殺害の真相は闇の中である。フィリピンの麻薬、暗殺の闇はとてつもなく深いといわざるをえない。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など