治安最悪のメキシコで「警護いらない」──メキシコ次期大統領
新興の左派ポピュリスト政党から次期大統領に選ばれたロペスオブラドール Goran Tomasevic-REUTERS
<国民がもたないものは大統領ももたないという左派アピールは本物か>
メキシコの治安は最悪だ。今年の殺人件数が過去最悪を更新する勢い、というだけではない。7月1日には、大統領選挙と地方選挙、国会議員選挙など約3000の選挙が行われたが、その候補者48人を含む政治家145人が殺されたのだ。メキシコ史上最も血なまぐさい選挙戦だった。現職に取り入って甘い汁を吸っている麻薬組織が、脅威となる対抗馬を葬ったのだ。
そんななか、大統領選を大差で制したのは新興左派政党「国家再生運動」のアンドレスマヌエル・ロペスオブラドール元メキシコシティー市長(64)は、大統領に就任してもボディガードはつけないという。代わりにメキシコ国民に守ってもらう、とAP通信に語っている。
選挙後の7月3日の記者会見でも、「ボディガードはいらない。これからは国民が私の身の安全を確保してくれる」、とロペスオブラドールは語っている。
それは選挙前からの公約だった。ロペスオブラドールは、5月の選挙集会で支持者に言った。「ボディガードに囲まれて移動するなど御免だ」「正義のために戦う男に、恐れるものなど何もない」
政府幹部の減給分を民衆に?
ロペスオブラドールは、貧困層に手厚い社会保障などのポピュリズム(大衆迎合主義)政策と汚職撲滅を訴えて圧勝した。ボディガードをつけないという主張も、「国民と共にある大統領」というイメージ作りにひと役買った。
大統領公邸には住まないと言っているのも同じことだ。公邸は、国民のための芸術施設にするという。大統領専用機は売却し、政府関係者にもプライベートジェットやヘリコプターの使用を止めさせる。「政府が金持ちで国民が貧乏などというのは許されない」が持論だ。
大統領給与も前任者の半額に減らすという。政府高官の減給分を合わせ、浮いたお金は国民に支払う。「教師や看護師、医者、清掃員、警察、兵士、海兵隊員などの給与も上がるだろう」