フィリピンのドゥテルテ、巨額国防費を承認 ドローンに潜水艦、戦車は何のため?
軍はテロ残党グループ掃討作戦開始
そして6月17日には南ラナオ州トゥバランの周辺地域で軍が「マウテ・グループ」掃討作戦を開始した。18日には武装組織の拠点とみられる地点に空爆を実施、砲撃を加えるなどしてグループの5人が死亡したとの情報もある。今回の作戦はマウテの残党を壊滅することを目指していると同地域での治安維持にあたる「合同治安部隊マラウィ」のローナ--副司令官は明らかにしている。
同地域の残党は約40人とされ、指導者は「アブ・ダル」と呼ばれている人物。ISからは東南アジア地域の「エミール(司令官)」に任命されているというが治安当局は確認していない。
この残党の一派とは別にマウテ・グループでマラウィ市占拠期間中に現金輸送を担当し、鎮圧前に脱出した「アブ・トゥライフィ」と呼ばれる人物が率いるのが新組織とされる一派で、SNSなどを通じて集めたメンバーを加えた約300人で構成され、やはり指導者とされる「アブ・トゥライフィ」はISから「エミール」に指名されたとしている。
情報が錯綜している部分もあり、軍や情報機関ではこの残党グループと新組織の関係、指導者とされている人物が同一人物なのか別人なのかを含めて詳細な分析を急いでいる。
対中国では硬軟両用の外交姿勢
ドゥテルテ大統領は南シナ海で人工島を建設し軍事拠点化するなど既得権益を着々と固めている中国のやり方に心底では憤っているが、対米関係と天秤にかけながら硬軟両用の独自外交を展開している。
5月28日にはカエタノ外相が「中国が南シナ海で天然資源の採掘を始めればドゥテルテ大統領は(中国と)戦争を始めるだろう」と述べ、同月30日にはエスペン大統領顧問(安全保障担当)も「大統領はフィリピン軍が挑発や攻撃を(中国から)受ければ、レッドラインを越えたと判断して戦争をも辞さない強い姿勢だ」との大統領の姿勢を明らかにした。
こうした強気の姿勢は対中国というよりは、国民に対する「強い大統領」を印象付ける狙いが優先しているものと見られる。
中国へのこのような強い態度を維持するためにも、潜水艦や長距離哨戒機、新式レーダーなどを今回承認した国防予算で整備し、軍の近代的を推進したいのがドゥテルテ大統領の思惑だろう。
とはいえ、ドゥテルテ大統領が本気で中国と事を構えようとは少しも考えていないことは明らかである。
国内向けには対中国で強気を示しながら、国内テロ対策を最優先することが国民の高い支持率を維持し続けるためにも、そして国際社会から批判されている麻薬犯罪関連容疑者への超法規的措置(射殺)を含めた強硬姿勢への批判を緩和するためにも必要不可欠。そのための軍の近代化という側面が強いと言えるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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