最新記事

軍事

フィリピンのドゥテルテ、巨額国防費を承認 ドローンに潜水艦、戦車は何のため?

2018年6月25日(月)17時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

米軍から比軍に引き渡されたドローン。狙いを定めるのは国内のテロリストか外国の軍隊か? Romeo Ranoco-REUTERS

<軍近代化のために増額されたフィリピンの国防予算がドゥテルテ大統領によって承認された。増強された軍備でドゥテルテは何をするのか?>

フィリピン国防省は6月20日、ドゥテルテ大統領が国軍の装備近代化のための政府予算3000億ペソ(約6200億円)を承認したことを明らかにした。国防省では新たな予算で整備される新装備は主に南部ミンダナオ島などで再結集の動きを見せているイスラム教テロ組織の鎮圧作戦に投入するほか、中国が一方的に領有権を主張して権益を確保しようとして対立が続く南シナ海の対応にあてる方針という。

フィリピン軍の装備は旧式も多く、一部では太平洋戦争時代の装備も最近まで使われていた。アキノ前政権でも約1800億円を投じて軍装備近代化が進められたが、その大半が中古の艦艇と航空機の導入に費やされ、それまでの装備は更新されたものの、最新装備には程遠い状況だったという。

一例を挙げれば2018年3月15日にフィリピン海軍を退役した旗艦「ラジャ・フマボン」は元は1943年建造の米海軍艦艇。太平洋戦争に参加、戦後日本の海上自衛隊に譲渡され「はつび」として活躍、そして1975年からはフィリピン海軍で現役を務めていたという「老朽艦」である。

残党が新テロ組織を編成して活動

ドゥテルテ大統領が承認した国防予算は軍近代化計画の一環で、長距離哨戒機、潜水艦などは中国をにらんだ装備と言えるが、ドローン(無人機)や軽戦車、ヘリコプターなどはむしろ国内治安対策用の色彩が濃く、反政府活動を続ける武装組織、特にイスラム教テロ組織の壊滅作戦に投入するものとみられている。

フィリピンでは2017年5月に南部ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市で、地元の「マウテ・グループ」に中東のテロ組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う武装組織が合流して同市を占拠。治安部隊と同年10月まで戦闘を続けた。ドゥテルテ政権は同地域に戒厳令を出して対応、空爆や砲撃と本格的な戦闘となった経緯がある。約半年の戦闘で住民、治安部隊、武装組織の約1100人が死亡し、ドゥテルテ大統領は戒厳令を2018年末まで延長して、今も警戒警備を継続している。

この「マウテ・グループ」の残党を中心とする新たな組織がフィリピン国内で勢力を広げている、との情報がある。

2018年に入ってマニラ北部トンド地区で残党とみられる2人が逮捕されたほか、ミンダナオ島中西部コタバト州コタバトと同島北ラナオ州イリガンでマラウィ市同様の都市占拠計画があったものの未然に防止されたとしている。

陸軍第1歩兵師団のロナルド・サスカノ少佐は新たなテロ組織は「マラウィと同様のテロをフィリピン国内のどこでも起こす可能性がある」「少人数に分散してマニラ首都圏に潜入、テロを計画しているとの情報がある」などと警告していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアバス、天津に新たな組立ライン開設へ 米中間でバ

ビジネス

日経平均は小反落で寄り付く、連騰の反動で利益確定売

ビジネス

貿易収支、9月は2346億円の赤字 対米輸出が6カ

ワールド

北朝鮮が東方に弾道ミサイル発射、5月以来 韓国軍発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 10
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中