アジア駐在の欧米特派員はセクハラ男だらけ
セクハラや性差別の被害者は、現地スタッフに限らない。アジアでアメリカの主要メディアの外国特派員を15年以上務めてきたある女性は、過去に何度も記者仲間から露骨な性差別を受けたと言う。時には、男性の同僚に手柄を横取りされた。ある上司には、君には子供がいるから昇進は無理だと言われたこともある。
「公平な法制度がない環境では、現地部門はやりたい放題で逃げ切れる。契約の『現地採用』や『現地国の法を適用』といった条項のせいで、苦情の申し立てが難しい」と、彼女は言う。
その結果、現地採用でないスタッフも苦情を申告しにくい状況ができる。「上級管理職に不平を申し立てても返答がなく、本社の人事部に掛け合ってもらちが明かない」こともある。
ある時、彼女は有力な情報源の人物からレイプされそうになった。しかし彼女はそれを上司に報告しなかった。それが明らかになれば自分のキャリアに傷が付くと思ったからだ。
本社から出張で来る記者も、現地スタッフをぞんざいに扱いがちだ。とりわけ女性への接し方はひどい。
マレーシアのベテラン女性ジャーナリストが、米有力紙の上級特派員を昨年、クアラルンプールで迎えたときの経験を語ってくれた。彼女が彼に然るべき情報源を教えると、彼は彼女を食事に誘った。お礼のつもりなのだろうと思って、彼女は応じた。
「最初は世間話だったが、彼は私に付き合っている人はいるかと尋ね、性生活について聞いてきた。私は冗談でかわし、彼が取り組んでいるプロジェクトに話題を変えようとした。やがてトイレに行くと、出てきたところでいきなり抱き付かれ、キスされそうになった。私は顔を背け、『やめてください』と2度繰り返した。ショックだった。彼が下着を着けていないのが分かった。パニックに陥ったが、相手は超一流メディアの特派員。すっぱり切り捨てるわけにはいかなかった」
仕事への影響を恐れ、彼女は匿名を条件に取材に応じてくれた。
10年来アジア各地で取材し、中国の雲南省に住んだこともあるマット・スキヤベンザに言わせると、酒の安さや人目を気にしないでいい環境、セクハラに対する現地の対応の甘さなど、さまざま要因が絡み合っている。「男性特派員の中にはジェームズ・ボンドばりのプレイボーイを気取り、大勢の女性とセックスしてこそ特派員だと勘違いしている連中がいる」と、彼は言う。
記者のセクハラ観は要確認
セクハラ被害に追われるようにして業界を去る女性は多い。加えて給与格差も立ちふさがる。1月にはBBCのキャリー・グレイシー中国編集長が、北米や中東の男性編集長が自分や他の女性編集長より「少なくとも50%高い」給与を得ていることに抗議して、編集長を辞任した。
ソーシャルメディアの普及でジャーナリスト個人の発言の場が増えるにつれ、こうした問題は一般に知られるようになった。しかしアメリカのシンクタンク「ウッドロー・ウィルソン国際研究センター」で米中関係を研究するルイ・チョンによれば、「#MeToo」運動をめぐるアジア各地の報道に反発するかのように、SNS上で怪しげなハラスメント観を披露する男性ジャーナリストも少なくない。