ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン
人権団体は、ウクライナ人70人近くが政治犯として、ロシアや占領下のクリミアで監禁されていると訴えているが、ロシア政府は否定している。W杯開催1カ月前の5月14日には、獄中のセンツォフが「ロシア領内で拘束されているウクライナ人政治犯全員の釈放」を求めてハンガーストライキを始めた。
他の活動家も活発に動いている。5月には14の人権団体がFIFA宛ての公開書簡に署名し、人権擁護団体「メモリアル」のチェチェン支部長オユブ・ティティエフを解放するよう、ロシアに圧力をかけてほしいと呼び掛けた。
なおチェチェンでの試合は組まれていないが、首都グロズヌイではエジプト代表チームがキャンプを張っていた。
来賓はいなくてもいい
60歳のティティエフは今年1月、大麻約170グラムを所持した容疑でチェチェン警察に逮捕された。彼の支持者によれば、これはチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長によるでっち上げだ。チェチェンのアプティ・アラウディノフ副内相はこれまでも、同様の手法で警察を動かし、カディロフの「敵」を何人も陥れてきた。
メモリアルは旧ソ連の反体制派が1989年に設立した団体で、ソ連時代の弾圧だけでなくプーチン時代の権力乱用も暴き、国際的に高く評価されている。
チェチェンにおける最近の弾圧は、昨年12月にカディロフのインスタグラムのアカウントが閉鎖されたことがきっかけとされる。「アカウントの閉鎖は、カディロフのイメージを損ねるものだ」と、メモリアルの創設者オレク・オルロフは言う。「カディロフは自分の邪魔をする者は抹殺せずにおかない」
17年に新たな人権ポリシーを採択したFIFAはティティエフの逮捕を気に掛けているとしたものの、エジプト代表の拠点をグロズヌイから移せという要求は拒否した。
メモリアルは、ティティエフが国際的に注目されることによって、プーチンがチェチェン当局に彼の釈放を命じざるを得なくなることを願っている。メモリアルのチェチェン支部を運営していたカティヤ・ソキリアンスキアは、「W杯の成功はロシア政府にとって非常に重要だから」と言う。「国際機関、特にFIFAがティティエフの事件を大きく取り上げてくれれば、プーチンが介入して彼を解放するかもしれない」
ロシアの反政府勢力の一部がワールドカップを利用して抗議の声を上げる一方、国際的なボイコットを呼び掛けて、プーチンのもくろみを台無しにしたい反体制勢力もある。
だが代表チームの派遣を拒否した国はない。3月に起きた元二重スパイの在英ロシア人セルゲイ・スクリパリの暗殺未遂事件でロシアを非難しているイギリスも、ワールドカップに出場するチャンスを失うことには二の足を踏んだ。イングランド代表が大会をボイコットする代わりに、イギリスは公式代表団の派遣を拒否。王室も今回の大会には顔を見せない。
しかし、プーチンはそんなことは気にしない。「彼は西側との険悪な関係に慣れている。来賓はいなくても構わない。重要なのはサッカー選手が来ることだ」と、カーネギー国際平和財団のコレスニコフは言う。