ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン
ロシアの力を世界に誇示
もう1つ重要なことは熱狂的なファン、とりわけロシア人ファンのマナーだ。近年、スタジアムで極右のサポーターがナチスの紋章「ハーケンクロイツ」をスタジアムで掲げる事件が起きている。10年には北カフカスのイスラム系若者グループによるファン殺害事件をきっかけに、1000人以上のフーリガンや超国家主義者がモスクワの赤の広場で暴動を起こした。
ロシアのサッカー関係者は、人種差別対策としていくつかの措置を講じている。17年にはロシア代表チームの元キャプテンだったアレクセイ・スメルティンを差別撤廃大使に任命した。
だが問題は解消されていない。3月にサンクトペテルブルクで行われたフランスとの国際親善試合では、ロシアのサポーターがポール・ポグバやウスマン・デンベレなどのアフリカ出身選手に人種差別的なやじを飛ばした。FIFAはロシアサッカー協会に3万ドルの罰金を科した。
「ここ数カ月の事件は、ロシアのファン文化に人種差別がどれほど深く根付いているかを示している」と、サッカーにおける人種差別に対する監視活動を行うパベル・クリメンコは言う。
フランスでユーロ2016が開催された際に、イングランドのサポーターと乱闘事件を起こしたロシア人フーリガンは国内でも恐れられている。だが多くの専門家は、今回は治安部隊がそのような暴力を許さないとみている。W杯ロシア大会はプーチンにとって、あまりにも重要だからだ。
フーリガンに詳しい情報筋によれば、警察は騒動を起こしそうな連中に対し、ロシアの国際イメージに害を及ぼすようなことがあれば長期刑が科される、と警告しているという。
この大会に関しては、イスラム過激派や地政学に関する話題が多過ぎて、スポーツイベントであることが忘れられがちだ。
ロシアは世界一のサッカー選手が自国でプレーすることに興奮しているが、ロシア代表チームが優勝する可能性はほとんどないと言っていいだろう。ロシアはワールドカップ参加国ではランキング下位のチームで、ソ連崩壊以来、上位争いに食い込んだことはない。
ロシア政府も試合の行方を左右することはできないが、それ以外の点ではFIFAの助けも借りて、何事も運任せにしたりはせず、隅々まで細心の注意を払っている。
そのいい例が、プーチン大統領とFIFAのインファンティーノ会長が登場した宣伝ビデオだ。インファンティーノのサッカーの技量は印象的だったが、プーチンの能力に関しては、優れた映像編集でかなり誇張されているらしい。
「ロシアにはこの大イベントを成功させる力がある。それを世界に見せつける。それが全てだ」と、ロシアの著名な作家でサッカー愛好家のビクトル・シェンデロビッチは言う。「サッカー自体は二の次。プーチンにとって、一番大事なのはプロパガンダだ」
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