最新記事

ロシアW杯

ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン

2018年6月19日(火)16時00分
マーク・ベネッツ(ジャーナリスト)

ロシアの力を世界に誇示

もう1つ重要なことは熱狂的なファン、とりわけロシア人ファンのマナーだ。近年、スタジアムで極右のサポーターがナチスの紋章「ハーケンクロイツ」をスタジアムで掲げる事件が起きている。10年には北カフカスのイスラム系若者グループによるファン殺害事件をきっかけに、1000人以上のフーリガンや超国家主義者がモスクワの赤の広場で暴動を起こした。

ロシアのサッカー関係者は、人種差別対策としていくつかの措置を講じている。17年にはロシア代表チームの元キャプテンだったアレクセイ・スメルティンを差別撤廃大使に任命した。

だが問題は解消されていない。3月にサンクトペテルブルクで行われたフランスとの国際親善試合では、ロシアのサポーターがポール・ポグバやウスマン・デンベレなどのアフリカ出身選手に人種差別的なやじを飛ばした。FIFAはロシアサッカー協会に3万ドルの罰金を科した。

「ここ数カ月の事件は、ロシアのファン文化に人種差別がどれほど深く根付いているかを示している」と、サッカーにおける人種差別に対する監視活動を行うパベル・クリメンコは言う。

フランスでユーロ2016が開催された際に、イングランドのサポーターと乱闘事件を起こしたロシア人フーリガンは国内でも恐れられている。だが多くの専門家は、今回は治安部隊がそのような暴力を許さないとみている。W杯ロシア大会はプーチンにとって、あまりにも重要だからだ。

フーリガンに詳しい情報筋によれば、警察は騒動を起こしそうな連中に対し、ロシアの国際イメージに害を及ぼすようなことがあれば長期刑が科される、と警告しているという。

この大会に関しては、イスラム過激派や地政学に関する話題が多過ぎて、スポーツイベントであることが忘れられがちだ。

ロシアは世界一のサッカー選手が自国でプレーすることに興奮しているが、ロシア代表チームが優勝する可能性はほとんどないと言っていいだろう。ロシアはワールドカップ参加国ではランキング下位のチームで、ソ連崩壊以来、上位争いに食い込んだことはない。

ロシア政府も試合の行方を左右することはできないが、それ以外の点ではFIFAの助けも借りて、何事も運任せにしたりはせず、隅々まで細心の注意を払っている。

そのいい例が、プーチン大統領とFIFAのインファンティーノ会長が登場した宣伝ビデオだ。インファンティーノのサッカーの技量は印象的だったが、プーチンの能力に関しては、優れた映像編集でかなり誇張されているらしい。

「ロシアにはこの大イベントを成功させる力がある。それを世界に見せつける。それが全てだ」と、ロシアの著名な作家でサッカー愛好家のビクトル・シェンデロビッチは言う。「サッカー自体は二の次。プーチンにとって、一番大事なのはプロパガンダだ」

本誌2018年6月26日号掲載


20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中