最新記事

イラン核合意

イランの孤立化を画策するイスラエル 核合意が崩壊すれば戦争も

2018年6月6日(水)21時05分
クリスティナ・マザ

シリアとの国境地帯、ゴラン高原に展開するイスラエル軍(2015年) Baz Ratner-REUTERS

<欧州歴訪中のイスラエル・ネタニヤフ首相が仏独英の指導者に核合意離脱を説く理由>

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は6月4日、3日間の欧州歴訪を開始。欧州の指導者に、仇敵イランの「脅威」を訴えにいくのだ。

5日に訪問したフランスでは、イランはイスラエルを破壊するためすぐにウラン濃縮を再開するだろうと言った。その直前にイランの原子力長官が、イラン核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)が崩壊した場合、ウラン濃縮の能力を拡大するためのインフラ整備を始める、と発表していた。

「イスラエルとイランは、イラン核合意が崩壊しなかったとしても、紛争に突入しかねない状態にある。もしイランが核開発のインフラ整備を始めたら、衝突は避けられなくなる」と、 ブルッキングズ研究所の中東専門家クリス・メセロールは本誌に語った。「イスラエルはイランの核保有は許されないと断言し、イランは、『止められるものならやってみろ』とイスラエルを挑発している」

イラン核合意は2015年のバラク・オバマ大統領時代、主要6カ国(アメリカ、中国、フランス、ドイツ、ロシア、イギリス)がイランと締結した合意で、イランが核開発計画を大幅に縮小する代わりに、欧米が経済制裁を緩和するという内容だ。だがトランプ政権は5月8日、この合意から一方的に離脱した。さらに、合意に沿って解除していた経済制裁も再開する意向だ。

合意は、崩壊の瀬戸際かもしれない。

欧州がイラン原油を買えなくなるとき

英独仏は、合意の維持を表明している。だがアメリカが制裁を再開すれば、イランと取引のある欧州諸国も制裁対象になる可能性が高い。すでにイランからの撤退を決めた欧州企業もあり、いつまで合意を持ちこたえられるかわからない。

一方、これまで核合意を順守してきたとみられているイランも、国際社会が核合意の代替案を提示しなければ、合意を反故にすると警告している。

もともと核合意(と、それに伴う対イラン援助)に猛反対だったネタニヤフは、英独仏に核合意を破らせるために欧州を訪問している。ネタニヤフに言わせれば、イランはイスラエル国家の存亡に関わる脅威だ。欧州の同盟国も、イランには厳しくあたらねばならない、と。

どこから火を噴くかわからないこの状況下でも、イランとイスラエルの衝突までにはまだ間がある、と考える専門家もいる。

「今起きているのは、プロパガンダ合戦だ。イランは、アメリカの離脱を埋め合わせる代替案を作り出すために、欧州各国に圧力をかけようとしている。一方ネタニヤフの反イラン・プロパガンダはもう20年以上続いている」と、米シンクタンク大西洋協議会のバーバラ・スラビンは言う。

「今はまだ、メッセージの応酬と宣伝の段階だ。だが1~2カ月以内に欧州各国が軒並みイランから引き揚げ、イランの石油を買わなくなれば、イランは核開発の再開を迫られる可能性がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中