米朝会談を「キャンセル」されても平気な理由
中国は北朝鮮にとって最も重要な友好国だが、金は祖父の金日成(キム・イルソン)や父親の金正日(キム・ジョンイル)とは異なり、簡単には中国に接近しなかった。最高指導者の座に就いてから6年余り中国を訪問せず、その間に、中国と関係の深い政権幹部を何人も粛清した。その中には、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)も含まれていた。
トランプと首脳会談の開催で合意した後でようやく習と会談したこと、そして、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と初めて会談するために軍事境界線の韓国側に足を踏み入れるという歴史的瞬間を演出したことを通じて、金が発したメッセージは明らかだ。
「金のプランBの中身がはっきり見えてきた。金はついに中国を訪問した。しかも、短い期間に2度も習と会談した。韓国大統領とも会談し、韓国国民の期待も高めた。おそらく、ロシアへの働き掛けも強めているに違いない」と、ウィットは述べている。
「こうやって、金は米朝首脳会談が失敗に終わった場合の緩衝材をつくり上げた。もしアメリカ政府が手を引いても、中国とロシアが北朝鮮の後ろについている。金がよほどひどい行動を取らない限り、中国とロシアは新たな対北朝鮮制裁に同意しないだろう。韓国も北朝鮮に接近し、米朝首脳会談の実現に向けて動くと思われる」
中国とロシアは、北朝鮮に核兵器保有を認めるべきではないという考え方の下、アメリカ主導の対北朝鮮制裁に賛同してきた。しかしその半面で、両国はアメリカがアジア・太平洋地域で影響力を増すことに反発し、軍事的・政治的・経済的結び付きを大幅に強化してきた。
とはいえ、中国とロシアの軍事力を足しても、アメリカには遠く及ばないのが現状だ。それでも両国は、アメリカ政府が国際社会で評判の悪い決定を下したとき、それを利用しようとしてきた。トランプがイラン核合意からの離脱を表明したときもそうだった。今回の米朝首脳会談キャンセルの決定に対しても、中ロ両国は失望感を表明している。
「仲間外れ」になった超大国
首脳会談中止の決定は、韓国にも事前に知らされていなかったようだ。トランプが中止表明の書簡を発表したのは、文がワシントンで米韓首脳会談を行った2日後だった。文はトランプの決定を知ったとき、「当惑している」と報道陣に語った。
韓国とアメリカの関係は、アメリカ政府のアジアへの関与という面ではこれまでになく強まっていた。ロウイー国際政策研究所(シドニー)が先頃発表した「アジア・パワー指数」で、韓国は25カ国中7位。防衛ネットワークの強さでは、アメリカとオーストラリアに次ぐ3位となっている。