金桂冠は正しい、トランプは金正恩の術中にはまった
こうなることは分かっていた?
ボルトンの発言は、「対話を通じて問題を解決する試みではなく、......リビアやイラクの運命を偉大なるわが国に押し付ける極めて不純な願いを表している」と、金桂冠は批判する。リビアやイラクは「大国」の圧力に屈した結果「崩壊した」。大げさな表現はさておき、その指摘には一理ある。
その上で金桂冠は、北朝鮮は「朝鮮半島の非核化」につながる「健全な対話と交渉」を希望していると、従来の北朝鮮の姿勢を改めて示した。だが最後に警告もしている。「もしアメリカがわれわれを追い詰めて一方的な核放棄を強いるなら、われわれはもはやそのような対話に興味はないし、(米朝)首脳会談に応じるべきか再考せざるを得ない」。これも合理的な主張だ。
北朝鮮の専門家は皆、金正恩が核兵器を放棄するはずがないと、長年警告してきた。トランプはそのことを知らないかもしれないが、ボルトンは知っている。ボルトンは大統領補佐官就任前にFOXニュースに出演したとき、米朝首脳会談が早く頓挫してほしいと語っている。そうすればアメリカが軍事行動を起こして、金の核施設に第一撃を加えられるというのだ。
そもそも金がなぜ米朝首脳会談を呼び掛けたのかについては、専門家の意見は分かれる。しかし金王朝は昔から、自らの存続を脅かす近隣諸国を互いに争わせることを最大の戦略にしてきた。特にアメリカと東アジアの同盟国の関係を弱めること、すなわち米韓、そしてチャンスがあれば日米に溝をつくることを目指してきた。
トランプは金正恩が絶対に受け入れない要求をすることで、この術中にはまった。首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう。そして韓国とは別途、平和を探ろうとするだろう。それは韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとって、むげに断りにくい提案になるかもしれない。
韓国とは和平プロセス継続か
金桂冠の談話発表後、トランプ政権高官は、引き続き首脳会談の実施を望んでいるが、もし中止になったら、それはそれで仕方がないというニュアンスの対応をした。これは北朝鮮の意図を読み違えているだけでなく、トランプが首脳会談に同意したときに取ったリスクを強調するものだ。
トランプは大きな期待をあおり、南北首脳会談の実現に貢献しただけで、ノーベル平和賞に値するとまでもてはやされた。一部の共和党議員も、11月の中間選挙の追い風となる合意を期待している。このため引っ込みがつかなくなったトランプが、何でもいいから「ディール」をまとめようとするのではないかと懸念する声は多い。