最新記事

交渉の達人 金正恩

韓国にもイスラエルにも──トランプは交渉の達人ではなく「操られる達人」

2018年5月22日(火)17時00分
ダニエル・レビ(米政策研究所アメリカ・中東プロジェクト会長)

韓国は朝鮮半島問題で「運転席」に座る(昨年11月の米韓首脳会談) KIM HONG-JI-REUTERS


180529cover-150.jpg<朝鮮半島と中東、対極の情勢を招いたのはトランプの「空っぽさ」だ――。もしもすべてが金正恩の思惑どおりだとしたら、どんな未来が待っているのか? 金正恩の交渉力に迫る本誌5/29号特集「交渉の達人 金正恩」より>

アジア大陸の両端で、両極端の「トランプ的外交」が展開している。正反対の現状を浮き彫りにしてくれたのは、ドナルド・トランプ米大統領自身だ。

トランプは5月8日、記者会見でイラン核合意からの離脱を表明。同時に、マイク・ポンペオ米国務長官が米朝首脳会談の準備のために北朝鮮に向かっている最中だと明らかにした。

外交の余地が生まれたのは、トランプが繰り広げてきた脅しのおかげだと主張することはもちろん可能だ。しかしトランプ政権の外交を決定付ける特徴とは、大統領本人の気まぐれな性質ではないかもしれない。

予測不可能性は国政の有効なツールになり得るが、活用するには慎重に練られた戦略が不可欠だ。ところが今の米政権では、上級高官も大統領の次の行動を推測するしかない場合が多い。知らされていないからではなく、大統領自身が分かっていないからだ。つまり中東と朝鮮半島でのディール(取引)の行方を左右しているのはトランプではなく、それぞれの地域の指導者の性格と優先課題にほかならない。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月27日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と南北軍事境界線上にある板門店で会談。10年半ぶりに開かれた南北首脳会談は一連の信頼醸成につながった。

アジア大陸の反対側の状況は大違いだ。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は4月30日、15年の核合意に当たって核兵器開発を否定していたイランが、実は開発を進めていたことを示すという資料を公開。その好戦姿勢はイランとの緊張を高め、核合意離脱をめぐるトランプの決断に影響を与えることを目的としていた。

同月9日に、シリア中部ホムスに近いT4空軍基地がイスラエルによるとみられるミサイル攻撃を受けて以来、情勢は悪化する一方。今や、シリア国内のイランの軍事拠点をイスラエルが空爆し、ゴラン高原に駐留するイスラエル軍部隊をイランがミサイル攻撃する前代未聞の事態が起きている。

米大統領を巧みに動かした文

長らく待たれる和平が実現しそうな朝鮮半島と、長らく危惧されてきた戦争が勃発しそうな中東は、いわば鏡像関係にある。文とネタニヤフは外交政策でそれぞれの立場を貫いてきた。前者は長年、黒子役に徹して南北和平の推進に努め、後者は20年以上にわたってイスラエル政治の表舞台で戦争をあおっている。

両者は当然、アメリカを自身の望む方向に引き込もうとしてきた。そしてトランプは過去の米大統領と比べて、この手の働き掛けに動かされやすい。

【参考記事】金桂冠は正しい、トランプは金正恩の術中にはまった

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中