「北の急変は中国の影響」なのか?──トランプ発言を検証する(前編)
退路がなくなった証拠に、劉鶴一行はアメリカに着くと、最後の頼みのキッシンジャー氏に泣きついている。キッシンジャーの誕生日にかこつけて、劉鶴は16日、キッシンジャーと会談し、95歳の誕生日を祝福すると同時に、「トランプ・習近平」の仲がいいお蔭で、中米貿易関係も必ず改善されていくものと思うなどとキッシンジャー氏に述べている。
キッシンジャー氏はほかでもない、例のキッシンジャー・アソシエイツを通して、親中の米大財閥を次から次へと習近平の母校である清華大学に送り込んで、数十名から成る顧問委員によって水面下で米中の経済貿易を密着させている人物だ(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』p.31)。
その効果があったのか、18日、トランプ大統領は突然、劉鶴副総理と会うと言い出し、中国側を驚かせた。この「突然」という情況は、CCTVで「叫ぶように」報道されたし、また中国政府系サイトでも、文字で見ることができる。このタイトルの「突然」の前にある「特朗普」という文字はトランプの中国語表現「特(te)朗(lang)普(pu)」である。
その席にはムニューチン財務長官だけでなく、ペンス副大統領までがいて、トランプ大統領は満面の笑みで「中国の副総理(副首相)」に対し異例の歓迎をしたと、中国では大変な扱いようだった。おまけにトランプ大統領はZTEの制裁を解除するとまで言っている。
さらに劉鶴側が単に「問題を適切に処理し」という言葉しか使ってないのに、トランプ大統領は「問題を積極的に解決し」という言葉を使っていると、中国の報道は熱を帯びていた。
このような米中貿易摩擦の分岐点に差し掛かる重要な時期に、習近平が金正恩に「米朝首脳会談開催も考え直さなければならないと恐喝しろ」などという趣旨のアドバイスなどをするはずがない。
そもそも、金正恩が習近平の言うことを聞くくらいなら、6年間も中朝首脳会談を行なわなかったというような事態は起きていないはずだ。金正恩が習近平の言うことを聞いたなどという憶測自体、中朝関係の真相をいかに理解していないかの証左となると言っても過言ではないだろう。
●「前編」はここまでとする。あまりに長くなったので、元中国政府高官への独自取材結果に関しては、「後編」で述べる。おそらく5月21日の午前中に公開できると思う。ご理解いただきたい。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。