最新記事

シンガポール

初の米朝首脳会談の開催地シンガポール なぜ選ばれた? 会談の行方は?

2018年5月15日(火)17時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

会談場所の有力候補と言われるシャングリラホテル。2014年5月のアジアセキュリティサミット開催時の警備のようす。 Edgar Su-REUTERS

<史上初の米朝首脳会談の開催地となったシンガポール。トランプ=金正恩が顔合わせする舞台として、アジアのビジネスセンターが選ばれた理由とは──>

米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長による史上初の米朝首脳会談が6月12日に東南アジアの都市国家、シンガポールで開催されることが発表された。

先ごろ金委員長と韓国の文在寅大統領による南北首脳会談が開催された両国の境界にある板門店や、モンゴルの首都ウランバートル、さらに欧州のスイス・ジュネーブなどが開催地の候補として名前が取りざたされたものの、最終的にシンガポールに決まった。

なぜシンガポールなのか? 地理的条件、政治的背景、過去の経緯などから開催地に決まった背景と会談の行方を探ってみる。

中立とはいえ米軍の影響下が実情

厳しい政府の統制下にあり「報道の自由」が実質上はないとされるシンガポール。現地の「官製メディア」は、今回のシンガポールでの米朝首脳会談という重要な決定を受けて「シンガポールが国際社会において安全で信頼できる中立国であることが証明された結果」と手放しで歓迎を示している。

実はシンガポールには米国大使館と北朝鮮大使館の両方が存在している。両国と良好な外交関係を維持していることが会談場所選定の前提条件としてあったことは間違いない。

もっともシンガポール人の中には、自国が北朝鮮と外交関係があることを今回の"米朝首脳会談開催地に決定"というニュースで初めて知った人も多いという。

なぜならシンガポールは完璧な学歴社会で、入試突破の勉強に集中する若者に代表されるように、とにかく利益追求第一の風潮が強いビジネス都市国家だ。朝鮮半島情勢や米国などの国際政治に関心のある国民がそもそも少ないことも影響していると思われる。

そんなこともあり、イーストコースの海外沿いの海鮮料理レストランなどに行けば、北朝鮮の指導者の目立つバッチを胸につけて一心不乱に魚介類を食べる北朝鮮大使館関係者に出会う確率がかなり高いという事実もあまり知られていない。

ではシンガポールは果たして国際社会で「中立か」というと、それはそれで疑問が残る。シンガポールの実情を知る関係者などからは「決してシンガポールは中立ではない」との声もでているからだ。

経済的、政治的には中国と密接な関係にあるが、安全保障面では米国寄りというのが実情だ。その証拠に東部チャンギ国際空港に近いチャンギ海軍基地は、米海軍艦艇がインド洋や中近東と太平洋を行き来する際に必ずといっていいほど寄港する「準米国海軍港」と化している。

つまりトランプ大統領が首脳会談で滞在中、米軍が最大限の警戒態勢を敷くことが可能な場所がシンガポールなのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中