最新記事

内部告発

中国の抗日戦争記念館元職員・方軍氏の告発──同館館長らの汚職隠蔽

2018年5月14日(月)13時28分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

筆者の著書を掲げる中国の抗日戦争記念館元職員・方軍氏 (方軍氏提供)

今年3月末、中国の作家協会会員で抗日戦争記念館の職員だった方軍氏からメールがあった。同館館長らの汚職隠蔽に関して日本で発表してほしいという依頼だ。問題視したら解雇された。「何が抗日だ」と怒りをぶつけた。

腐敗指摘で解雇された方軍氏

現在64歳になる方軍氏は、中国の抗日戦争記念館(正式名称は中国人民抗日戦争記念館)・研究部の職員だったが、48歳の時(2002年)に館長らに関する腐敗を内部で指摘して、事実上解雇された。窓際に追いやり、いたたまれない状況にした上で、退職せざるを得ない方向に持っていったのである。

以来、無職。現在は中国作家協会の会員として執筆活動で細々と生計を立てている。

今年に入って、筆者の『毛沢東 日本軍と共謀した男』という本を入手し、この人なら自分に代わって腐敗の事実と経緯を世に発表してくれるかもしれないと、日本にいる中国人の友人を通して、筆者に連絡してきた。もう16年も経ち、このまま不正が埋もれていくのかと絶望的な日々を送っていたが、中国共産党の欺瞞性を暴く本を書く勇気を持った人なら、きっと理解してくれるにちがいないと、一縷の望みを託したのだという。

習近平国家主席は「虎もハエも同時に叩く」として腐敗撲滅に力を注ぎ、一般庶民にも告発することを奨励しているとされるが、実際には内部で指摘しただけでも退職に追いやられるほど、腐敗は蔓延し、手の施しようがないと、方軍氏は怒りをぶつけてきた。

彼が関心を持っているのは「腐敗」。

おまけに抗日戦争記念館の館長が腐敗にまみれながら、それを隠蔽しているというのだから、「中国の反日」や「抗日戦争への義憤」など、いかに本物でないかを物語っていると方軍氏は力説する。

抗日記念館への寄付金さえ、館長がネコババしていると訴えてきた。

この不正を暴きたい。しかし中国大陸のネット空間で発表したら、すぐに削除されるだけでなく、政府は問題解決に当たろうとしない。だからどうか自分に代わって、実態を公開してくれという。海外で問題になった場合にだけ、中国政府は動くだろうからというのが、方軍氏の考え方であり、切なる願いだ。

公表する際に、彼の実名を出すことも、彼が頼んできたことも、全てありのままに書いていいとのこと。

筆者が「あなた(方軍氏)の身に危険が及ぶのではないか」と心配して何度も確認したところ、逆に「あなた(遠藤)までが、発表するのを恐れるのか?だとすれば、もうこの世には如何なる望みもない」とまで言ってきたので、そこまで望むならと、引き受けることにした。方軍氏の依頼通りに、方軍氏の主張を、ありのままに公表する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ

ワールド

アングル:殺人や恐喝は時代遅れ、知能犯罪に転向する

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中