最新記事

核開発

目には目を! トランプの核合意破棄へイランが取りうる「報復シナリオ」

2018年5月10日(木)16時00分


条約

核開発を巡り、イランにはいくつか選択肢がある。

イラン政府関係者は、選択肢の1つとして、核兵器の拡散防止を目的とする核拡散防止条約(NPT)から完全に脱退することも検討していると述べている。

イランの最高指導者ハメネイ師は、核兵器開発に関心はないとしている。だがもしイランがNPTから脱退すれば、世界を警戒させることは間違いない。

「そうなればイランは孤立し、破滅的な方向に向かうだろう」と、米シンクタンク大西洋評議会のAli Alfoneh上級研究員は言う。

仮にイランがNPTから脱退しなくても、核爆弾の原料製造につながるとして核合意で厳しく制限されているウラン濃縮活動を活発化する可能性をイランは示唆している。現在の核合意では、イランは濃縮度を3.6%以下にとどめなければならない。

2015年の核合意の一環で、イランは20%の濃縮ウランの生産を止め、貯蔵していた濃縮ウランの大半を手放している。

濃度20%のウランは、民生用の原子炉燃料として必要な濃度である5%を大きく上回るが、核爆弾を作るのに必要な高濃縮ウランの濃度80─90%には届かない。

イランのサレヒ原子力庁長官は最近、イランは合意前よりも高濃度のウランを生産することが可能だと発言している。

イランによる対応は、米国による合意破棄について、他の合意署名国がどういった反応を示すかにも影響されると、アナリストは話す。

その上で焦点となるポイントは、国連安保理が全会一致で承認した国際的な約束事である核合意の下で自国企業がイランとの取引を続けることにフランスやドイツがどの程度強い姿勢を見せるか。シリアで手を組むロシアがどれほど外交的に支援するか。また、巨大経済圏構想「一帯一路」にイランをつなぎとめる意欲がどれだけ中国にあるか、だ。

仮にトランプ政権が、制裁を再開し、違反者を米金融システムから締め出すと脅せば、それが「踏み絵」となるだろう。他の核合意署名国の中では、最大のイラン産原油輸入国である中国だけが、無傷でいられるだろう。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Babak Dehghanpisheh

[ベイルート 3日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中