最新記事

日中韓首脳会談

日中韓と日中首脳会談に見る温度差と中国の本気度

2018年5月10日(木)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

8日の深夜、習近平国家主席はトランプ大統領と電話会談をして「北朝鮮側の安全に対する関心事を考慮すべきだ」「米朝が相互信頼を打ち立て、段階的に行動すべきだ」と、金正恩委員長の願いを代弁して、「段階的非核化」への理解を求めた。トランプ大統領は「北朝鮮問題解決における中国の貢献」を評価し、習近平を喜ばせている。これにより中国は存在感を示すことができ、金正恩委員長の中国再訪の申し出を受け入れた甲斐があったというものだろう。

初めて拉致問題解決に協力するとした中国

これまで中国は六者会談などで日本が拉致問題を持ち込んでくるのを非常に嫌ってきた。拉致は北朝鮮と日本の間の問題なので、二国間で話し合ってくれというのが中国の長年の主張だった。六者会談は朝鮮半島の非核化問題を検討する会談なので、そこに北朝鮮が触れられたがらない拉致問題を持ち込んでくると、非核化問題の解決を阻害するというのが中国の言い分だ。

それが今回は、「日本が関心を示す問題に協力する」と、日中韓首脳会談後の記者会見で李克強首相は述べたし、また日中首脳会談前には「拉致問題に協力する」と、「拉致」という言葉を使ったとのこと。

さらに日中韓首脳会談における共同声明では、初めて「中韓両国の首脳は、日本と北朝鮮の間の拉致問題が対話を通じて可能な限り早期に解決されることを希望する」と、「拉致」が明記された。画期的なことだ。

「歴史問題」に関して譲歩した中国

最も難航したのは、いわゆる「歴史問題」のようだ。

これまでの日中首脳会談の前後には必ず「日本は歴史の真相を直視せよ」という常套句が中国側から居丈高に発せられてきたが、今回は初めて、それを控えた。

共同声明では歴史問題に関しては「3カ国が悠久の歴史および久遠の未来を共有していることを再確認した」とするに留め、対日批判のトーンを抑えた表現となった。

日中首脳会談で見せた中国の本気度

なぜ中国はこんなに譲歩したのだろうか。

今年は日中平和友好条約締結40周年に当たるということもあろうが、中国の対日懐柔策の本気度は、米中貿易摩擦だけでなく、何よりも中朝関係の奇怪さに起因する。

5月2日付のコラム<「中国排除」を主張したのは金正恩?――北の「三面相」外交>や5月7日付けのコラム<中国、対日微笑外交の裏――中国は早くから北の「中国外し」を知っていた>などに書いたように、金正恩委員長は軍事的には中国の後ろ盾を頼りにしてアメリカを牽制しているにもかかわらず、経済的には中国に呑みこまれたくないと考えている。そのために朝鮮戦争の休戦協定を終戦協定に転換させていく平和体制構築プロセスにおいて中国を外した米朝韓3ヵ国による協議の可能性を板門店宣言で示唆したのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中