最新記事

イラン

イラン核合意離脱でトランプが狙う「体制転換」シナリオ

2018年5月9日(水)19時49分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

経済的圧力は、時には敵を交渉のテーブルにつかせたり、敵の政策を変更させたりすることもあるし、戦争中は敵を弱体化させることもある。だが核合意からの離脱は、イランを屈服させる方向には働かない。

私が間違っていて、イランの現体制が崩壊したとしたら、どうなるだろうか。

これまでにも多くの例で見たように、安定した親米政権が誕生する可能性は低い。アメリカの支援によるイラクの体制転換は、内戦や血なまぐさい反乱、残忍なイスラム国の台頭を招いた。

外国から強制されたリビアの体制転換も同じことだ。アメリカは近年、ソマリアやイエメン、アフガニスタン、シリアなどにも介入してきたが、結果的にすべての国で不安定さが増し、テロリストに格好の土壌を提供した。

アメリカがイランでしたことも忘れてはならない。1953年、民主的に選出されたモハマド・モサデク首相を追放し、モハマド・レザ・パーレビを王位に復権させたことは激しい反米主義を生み、1979年にイラン革命が起こり、以来アメリカはずっとそれに対処しなければならなかった。

さらに、イランの著名な反政府活動家は多くがイランの核開発計画を支持しており、彼らが体制側になったとしても米政府の追従者にはならないことも覚えておくべきだろう。

お笑い草の戦争という選択肢

では第2の選択肢である戦争はどうか。事態が緊迫し、戦争が避けられない情勢となれば、おなじみの「衝撃と畏怖」作戦により、イランの核開発インフラを完全に破壊できるだけでなく、イラン国民が立ち上がって体制転覆をしてくれるだろうというのが、アメリカのタカ派の楽観的な考えだ。

お笑い草でしかない。仮にアメリカがイランを爆撃したとして、イラン国民がこれを歓迎するとはまず考えられない。逆にイランのナショナリズムを刺激し、国民は現政権の下まとまろうとするだろう。

さらに言えば、イスラエルあるいはアメリカによる軍事攻撃は、イランによる核武装の歯止めとはならない。せいぜい核兵器の開発を1、2年遅らせるだけだろう。

このような攻撃を受ければ、イラン国民の大多数は、自国の安全を確保するには、北朝鮮のように自ら核抑止力を手にするしかないと確信するはずだ。

そしてイランは密かに設けた核開発施設の保護を強化し、核兵器開発に向けた取り組みを一層加速させる。イランが核開発の道を突き進めば、周辺の国々も同じ道をたどる可能性が高い。

中東に複数の核兵器を持つ政権があるほうが望ましいと考えるならこの選択肢が望ましいが、その帰結は言うまでもなく悲惨なものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB忍耐必要、6月までの政策変更排除せず=クリー

ワールド

ロシア、北朝鮮製ミサイルでキーウ攻撃=ウクライナ軍

ビジネス

関税の影響見極めには年後半までかかる─ウォラーFR

ワールド

トランプ氏「中国を債務不履行にすべき」、ボーイング
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 2
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 3
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 6
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中