最新記事

ロヒンギャ

ミャンマー警察官、内部告発で有罪 ロイター記者逮捕の真相判明

2018年5月6日(日)08時29分
大塚智彦(PanAsiaNews)


記者はロヒンギャ虐殺事件を取材

ロイターの2記者もラカイン州北部のインディン村で発生したロヒンギャ族10人が国軍兵士に虐殺された事件の取材を行っていた。国軍は関与を完全否定しているが、それを覆すべく取材は核心に迫っていたとされる。

衝撃的な証言を行ったモーヤンナイン警部はその後「警察官職務執行法」違反容疑で起訴され、4月30日に懲役1年(不定期との情報もある)の有罪判決を受けた。同警部の家族は4月20日の証言の翌日には警察官官舎から追放されたという。

警察は証言と官舎からの移転は「全く無関係の事案」としているが、内部告発した現職警察官とその家族への組織的嫌がらせであることは誰の目にも明らかで、その後動静が不明の同警部に関して命の危険も懸念されている。

ロイター記者2人の判決公判は8月以降になるとみられているが、裁判所が現職警官の証言とその証言を「今回の警察官(の証言)が信頼できないとは考えられない」と判断して、検察側の再三の「証拠として不採用要求」も却下したことで、有罪となれば最高で14年の懲役刑もありうる裁判で無罪判決が下される可能性が高くなってきた。

判決は民主化の度合いを知る試金石に

5月2日の裁判所の判断を受けてワーロン記者は「今日の裁判所の決定はうれしいことで、我々への不当な扱いが証明され、真実がもうすぐ明らかになるだろう」と記者団に語り、キンマウンゾー弁護士も「ミャンマーの司法が正常に機能することが証明された」と歓迎のコメントを発表した。

ただ、警察の「でっちあげ」という不正を証明することになる2記者への無罪判決については「まだまだ予断を許さない」との見方は根強い。警察上層部が裁判官に圧力をかけて有罪判決に持ち込ませる可能性が危惧されているからで「民主化運動の旗手だったスーチー最高顧問の指導力が試される」と判決の行方に注目が集まっている。判決は同時にミャンマーで実現した民主化の進捗度を知るひとつの試金石となるといわれている。

さらに隣国バングラデシュに約70万人のロヒンギャ族がミャンマー国軍による迫害、虐殺という「民族浄化作戦」を逃れて避難し、国際的な批判を浴び、ノーベル平和賞を剥奪すべしとの声すら高まっているスーチー最高顧問の政治的指導力を問うバロメーターにも判決はなるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20241203issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月3日号(11月26日発売)は「老けない食べ方の科学」特集。脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす最新の食事法。[PLUS]和田秀樹医師に聞く最強の食べ方

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油は5ドル過小評価、対イラン制裁で供給減のリスク

ワールド

今年のタイ経済成長率は2.7%、来年は2.9%に加

ワールド

中国のCO2排出量、24年に小幅増の見込み 気候目

ビジネス

日経平均は続落、円高を嫌気 感謝祭前の利益確定売り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    放置竹林から建材へ──竹が拓く新しい建築の可能性...…
  • 5
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 6
    こんなアナーキーな都市は中国にしかないと断言でき…
  • 7
    早送りしても手がピクリとも動かない!? ── 新型ミサ…
  • 8
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 9
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中