ミャンマー警察官、内部告発で有罪 ロイター記者逮捕の真相判明
記者はロヒンギャ虐殺事件を取材
ロイターの2記者もラカイン州北部のインディン村で発生したロヒンギャ族10人が国軍兵士に虐殺された事件の取材を行っていた。国軍は関与を完全否定しているが、それを覆すべく取材は核心に迫っていたとされる。
衝撃的な証言を行ったモーヤンナイン警部はその後「警察官職務執行法」違反容疑で起訴され、4月30日に懲役1年(不定期との情報もある)の有罪判決を受けた。同警部の家族は4月20日の証言の翌日には警察官官舎から追放されたという。
警察は証言と官舎からの移転は「全く無関係の事案」としているが、内部告発した現職警察官とその家族への組織的嫌がらせであることは誰の目にも明らかで、その後動静が不明の同警部に関して命の危険も懸念されている。
ロイター記者2人の判決公判は8月以降になるとみられているが、裁判所が現職警官の証言とその証言を「今回の警察官(の証言)が信頼できないとは考えられない」と判断して、検察側の再三の「証拠として不採用要求」も却下したことで、有罪となれば最高で14年の懲役刑もありうる裁判で無罪判決が下される可能性が高くなってきた。
判決は民主化の度合いを知る試金石に
5月2日の裁判所の判断を受けてワーロン記者は「今日の裁判所の決定はうれしいことで、我々への不当な扱いが証明され、真実がもうすぐ明らかになるだろう」と記者団に語り、キンマウンゾー弁護士も「ミャンマーの司法が正常に機能することが証明された」と歓迎のコメントを発表した。
ただ、警察の「でっちあげ」という不正を証明することになる2記者への無罪判決については「まだまだ予断を許さない」との見方は根強い。警察上層部が裁判官に圧力をかけて有罪判決に持ち込ませる可能性が危惧されているからで「民主化運動の旗手だったスーチー最高顧問の指導力が試される」と判決の行方に注目が集まっている。判決は同時にミャンマーで実現した民主化の進捗度を知るひとつの試金石となるといわれている。
さらに隣国バングラデシュに約70万人のロヒンギャ族がミャンマー国軍による迫害、虐殺という「民族浄化作戦」を逃れて避難し、国際的な批判を浴び、ノーベル平和賞を剥奪すべしとの声すら高まっているスーチー最高顧問の政治的指導力を問うバロメーターにも判決はなるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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