マレーシア総選挙9日投票──マハティール元首相の野党が挑む初の政権交代
4月5日にはマハティール新党のPPBMに対し当局が必要文書未提出を理由に30日間の政治活動禁止を通告、実質的に総選挙から排除する「荒業」にでた。マハティール元首相は「無所属でも選挙に出馬する」と憤り、不服の訴えがマレーシア高裁で認められて政治活動、選挙参加が可能になった経緯もある。
さらに、投開票日を9日水曜日という平日にわざわざ設定した背景には、前回総選挙でも野党支持者が多かった都市部の若者が平日に選挙登録してある出身地に戻って投票することを難しくするという与党側の「策略」が見え隠れしていた。さすがにこれは野党やマスコミの非難を受けてナジブ首相も4月9日の投票日は休日にする、と変更を余儀なくされた。
野党連合の方も負けじと「野党が勝利すれば10、11日も連休にする」として国民の支持を得ようとしている。
野党分裂の影響で与党有利との見方も
一方で野党連合が一枚岩ではないことも状況を複雑にしており、野党連合の一角を形成していたPASが2月に突然マハティール新党と協力しない姿勢を示し、野党連合から離脱した。
PASのアブドル・ハディ党首によれば同党が国会に提出した「イスラム法廷改正案」を野党連合のDAPやAmanahが批判したことが直接的な原因で、この2党と同盟関係にあるマハティール新党には協力できない、のが理由という。国民からは「党利党略優先で理解できない」と批判され、PASの一部が離党するなど分裂状態を露呈している。
マレーシアでは国民の約69%を占めるイスラム教徒の投票行動も一つの鍵となるため、こうしたPANの「迷走」が最終的には与党有利に働くのではないか、との懸念も高まっている。
最大の焦点はナジブ政権の汚職体質
マハティール元首相がかつて自らの内閣で国防相など主要閣僚として登用したナジブ首相を「敵に回して打倒を目指す」ようになった最大の要因は、その金権汚職体質にあるとされる。
ナジブ首相の肝いりで設立された政府系ファンドの「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」は一説には約1兆4000億円という巨額の負債を抱え、約760億円の一部資金がナジブ首相の銀行口座に移された、との疑惑が指摘されている。
マレーシア国内の捜査ではこの疑惑は「違法性なし」とされているが、米司法当局が米国内で提訴するなど全容は未解明である。
「疑惑の解明と汚職体質払拭」で攻勢をかける野党連合がどこまで反与党票を伸ばすか、そして同国初の政権交代は実現するのか、マハティール元首相は首相に返り咲けるのか。今回のマレーシア総選挙は見どころ満載である。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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