最新記事

格差

日本は経済的豊かさと子どもの貧困が同居する奇妙な社会

2018年5月1日(火)13時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

貧困家庭では親子の会話(コミュニケーション)が乏しい傾向が見られる fstop123/iStcok.

<学用品の所持数を基準にした日本の15歳の子どもの貧困率は、先進国で最も高い。経済大国でありながら、子どもの貧困大国でもある>

子どもの貧困が社会問題化しているが、貧困状態にある人の数を測る指標として相対的貧困率がある。年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らす人の割合だ。2014年のOECD(経済協力開発機構)統計によると、日本の子ども(18歳未満)の貧困率は16.3%で、先進国ではアメリカに次いで高い。

しかし、貧困とは収入だけではかれるものではない。イギリスの社会学者のピーター・タウンゼントは、所持品や活動の量が一定水準に達していない状態を貧困としているが、こうした「生活の質(quality of life)」に注目する見方もある。

OECDの国際学力調査「PISA 2015」では、13の学用品(勉強机、自室、参考書、コンピューター、芸術書など)を提示し、それぞれが自宅にあるかたずねている。65カ国の15歳の生徒(約41万人)の所持数分布をみると中央値は10個だ。この半分の5個に満たない生徒を貧困とみなすと、日本の貧困生徒の割合は5.2%となる。アルジェリア、インドネシア、メキシコといった発展途上国では2割を超える。

この基準での貧困生徒率は、国の経済的豊かさと逆相関にあるように思えるが、必ずしもそうではない。横軸に名目GDP、縦軸に貧困生徒率をとった座標上に、両方が分かる50カ国を配置すると<図1>のようになる。「瑞」はスウェーデンを指す。

maita180501-chart01.jpg

経済的に豊かな国ほど貧困状態の子どもは少ないように思えるが、そういう傾向はない。左上の発展途上国を除くと、プラスの相関関係すら見受けられる。日本の貧困生徒率は、主要先進国の中では最も高い。

GDPが低くても原点付近の社会のほうが、子どもにとっては幸福な社会という見方もできる(北欧諸国はこのゾーンにある)。現状で言えるのは、日本は経済的な豊かさと子どもの貧困を併せ持った奇妙な社会である、ということだ。

国内で見ると、貧困生徒とその他の生徒では家庭的背景が違っている。父親が大卒以上の生徒の割合は貧困生徒では26.2%であるのに対し、その他の生徒では45.1%だ。大学進学志望率も前者が36.1%、後者が60.0%で、教育格差の再生産が起きやすくなっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指

ビジネス

アングル:データセンター対応で化石燃料使用急増の恐

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中