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北朝鮮「日本だけイライラしてひねくれている」北朝鮮が言いたい放題
南北首脳会談では和解ムードを演出した金正恩だが REUTERS
<金正恩が対話の意思を示して以降も日本への非難を続ける北朝鮮メディア。本当に日本と対話する気はあるのか?>
韓国の文在寅大統領は29日午前、安倍晋三首相と電話会談し、27日の南北首脳会談で北朝鮮の金正恩国務委員長(朝鮮労働党委員長)が「日本と対話する用意がある」と表明したことを伝えた。
北朝鮮との対話は日本側も望んでいたものであり、南北に続いて5~6月に予定されている米朝首脳会談、そしてその流れで日朝首脳会談が実現するかもしれないとの期待がにわかに高まった。
でも母親は大阪出身
ところがその一方で、北朝鮮メディアは日本非難を続けている(以下、公式日本語訳ママ)。
南北首脳会談翌日には、国営の朝鮮中央通信が「周知のように今、朝鮮半島を巡る情勢は良好に発展している。ところが、ただ日本だけが火床の上に座っているようにいらいらして全てのことにひねくれたことを言っている」などとする論評を配信。さらに29日には朝鮮労働党機関紙の労働新聞が「(日本は情勢変化の)流れから押し出されて独りぼっちの境遇になった」などと書いた。
さらにさかのぼれば、次のように言いたい放題だ。
「体質的に意地悪く、心の狭い政治、いびつのそのみみっちい習癖を捨てられない日本の反動層が実に哀れである」(労働新聞18日付)
「時代的感覚が鈍い島国一族ならではのたわいない妄動」(労働新聞5日付)
北朝鮮メディアはこのところ、韓国政府への非難を手控える一方で、米国批判は続けている。しかし昨年に比べると攻撃性は弱まっており、日本に対してだけ、辛辣さが増している。
北朝鮮のメディア戦略は金正恩氏が直々に統括しているはずなのだが、いったい彼は、日本と対話する気があるのか、ないのか。
<参考記事: 金正恩氏が自分の"ヘンな写真"をせっせと公開するのはナゼなのか>
筆者が思うに、金正恩氏は日本との対話そのものについて、拒否感を持っているわけではないと思う。なんといっても、日本の大阪は自分の母親が生まれ育った地だ。また最近になって、金正恩氏が幼少の頃、偽造旅券を使って日本に遊びに来ていたとの「疑惑」も報じられた。
ただ、南北統一という大義を共有する韓国や、北朝鮮の体制保障を行うパワーを持つ米国と比べ、日本は北朝鮮にとって、交流による成果を見出しにくい相手なのかもしれない。
日本と対話すれば必ず日本人拉致問題が出てくるし、仮にそれが進展したとしても、次は人権問題が出てくる。日本政府は拉致問題の一環として、欧州連合(EU)とともに10年以上にわたり、国連で北朝鮮の人権侵害追及の旗を振ってきた。それだけに、北朝鮮国内の人権状況が改善せずしては、経済支援などを実行しにくいのだ。
とりわけ、国民虐待の温床である政治犯収容所が維持されたままでは、国際社会の手前もあり、日本は対北支援に動けない。
<参考記事: 北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態...「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も>
一方、経済支援に関しては、米朝関係さえ好転して制裁が解除に向かえば、中国と韓国が喜んで手を差し伸べてくれそうな気配だ。おそらく、いまの北朝鮮経済にはそれでじゅうぶんであり、そのため日本への期待も非常に弱いものになっているのかもしれない。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。