ハンガリーで民主主義の解体が始まる──オルバン首相圧勝で
「キリスト教国家」の救世主として総選挙に圧勝、再選を果たしたオルバン首相 Leonhard Foeger-REUTERS
<反移民、反自由主義を掲げて支持を集めたハンガリーのオルバン首相が、総選挙で再選された。今後4年間、民主主義の後退を防ぐことはほとんど不可能で、ジョージ・ソロスの自由な大学も国外に移転せざるをえないとみられる>
4月8日に行われたハンガリーの総選挙でビクトル・オルバンが勝利したことは、驚きではなかった。もう何週間も前から、オルバンは圧倒的な勝利に向かっているとみられていた。
4月9日午前の開票時点で、オルバン率いる右派政党フィデス・ハンガリー市民連盟が予想以上の圧勝を収めたことがわかった。
反自由主義への傾斜を強めるフィデスなど連立与党は、ハンガリー議会の3分の2超を占め、過去8年にわたって実施してきた改革を引き続き進めることができることになった。
今後4年間、オルバンと連立与党は、憲法を改正し、政敵を弾圧するだけの政治権力を持つ。専門家は、オルバンの台頭をもたらした民主主義の後退を防ぐことは、ほとんど不可能だと述べている。
「この勝利によってオルバンは、完全民主主義を反リベラル民主主義に転換し、さらにそれを『選挙による独裁』に転換するのに必要な権力を獲得した」と、ハーバード大学講師のヤッシャ・ムンクは本誌に語った。
「ハンガリーの野党勢力が、選挙でオルバンを倒す機会はほとんどない」と、ムンクは続ける。「オルバンは独立政党が候補を出すことをより難しくするために、憲法を改正することもできる。大学を支配することもできるし、議会を通じて最高裁を廃止することさえできる」
圧倒的に与党有利の選挙
欧州安全保障協力機構(OSCE)は、フィデスは国内における真の政治的競争を抑圧したと主張し、ハンガリーの今回の選挙を批判的した。
「4月8日の議会選挙では、国と与党が共闘する形になり、野党候補は対等な立場で戦うことができなかった」と、OSCEは指摘した。
「有権者は幅広い政治的選択肢を持っていたが、脅迫的で外国に対する偏見に満ちた表現や、メディアの偏向、選挙資金の不透明さなどによって、純粋な政治討論の場が限定され、十分な情報を得て選択をすることができなかった」
過去8年間、オルバンはハンガリーのメディアを支配し、批判的なジャーナリストを脅し、憲法裁判所の権限を制限し、チェック・アンド・バランス(抑制均衡)を損なったと非難されてきた。
再選をめざす選挙戦の間、オルバンは、反移民と反ユダヤの極右的表現を駆使し、ハンガリーを、イスラム教徒と外国資本の侵略に脅かされるキリスト教国家として描き出した。
オルバンの選挙活動の大半は、ハンガリー生まれのユダヤ人億万長者で米慈善家のジョージ・ソロスに対する攻撃に向けられた。
オルバンは絶え間なくソロスを攻撃し、難民に国境を開くことによってキリスト教国としてのハンガリーが破壊されると警告するポスターを国中に張り出した。
オルバンの勝利は、現在の恐るべき政治情勢の象徴であり、第2次大戦以来、ヨーロッパの指導者がユダヤ人を国家の敵として非難することで選挙に勝った初めてのケースだ。