わざわざ「ガールズグループ」に会いに行った金正恩氏の危険な試み
法治主義などほとんど存在せず、権力者がやりたい放題の北朝鮮において、最高指導者が韓流アイドルを国内に招き、その公演を見て、直接会いに行って記念写真を撮ったこと自体は、驚くほどのことではない。
しかし、この事実は間違いなく北朝鮮の人々、とくに若者たちには影響を与える。とくに、北朝鮮の社会主義経済がそこそこ機能していた時代も知らず、物心ついたときから市場経済の競争原理に触れてきた20代前半より若い世代は、体制に対する感謝の念などまるで持ち合わせておらず、自立心が旺盛だとも言われる。そんな若者らが心の内で「どうして金正恩は良くて、自分たちはダメなんだ!?」との思いを強めるのは避けられないだろう。
そのような思いをより広範な人々が共有するに至ったとき、北朝鮮社会で何らかの変化が起きる可能性もある。果たして金正恩氏には、そのようなリスクに対する覚悟があるのだろうか。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。