最新記事

中国政治

政府と人民を飲み込む党――全人代第五報

2018年3月22日(木)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

このことからも、習近平への権力一極集中が、権力闘争の結果ではなく、「中国共産党による一党支配体制が、このままでは維持できない」ということが、2013年の習近平政権発足時点からあったことが窺える。「党の力を強化するために、誰もが震え上がる人物を一人創らねばならなかった事情」が中共側にあったことの、何よりの証しだ。

「人民」を統治の手段に

憲法には従来から「人民為主」という言葉が随所にちりばめられており、「人民こそが主人公」というのが中華人民共和国を統治する中国共産党のスローガン(建前)であった。これは飾りに過ぎず実態を伴わないどころか、人民を利用して人民を圧迫してきたことは論を俟(ま)たない。

その「人民」を、習近平国家主席は3月20日の閉幕式における講話で80回以上も使い、人民網が「人民領袖習近平は"人民"の二文字を新時代の答案に刻み付けた」とした記事が中央電視台中国網など、数多くの媒体に転載された。

また人民網は「党の核心、軍隊の統帥、人民領袖習近平」というタイトルで全人代を締めくくっている。そして習近平こそは新時代の中国の特色ある社会主義国家の舵取りであり、人民の道案内人であると讃えている。「このような習近平同志を核心とした党中央の堅強な指導の下にあってこそ、中国は自信を持って中華人民共和国の偉大なる復興を遂げる中国の夢を実現することができるのである」としている。

「人民領袖習近平」は中央電視台CCTVでも何度も叫ぶように喧伝された。

中国の革新的な主張を持つネットユーザー(本来、オピニオンリーダーだった人々)からは悲鳴のようなメールが筆者のところに数多く寄せられるようになった。日本やワシントンにいる友人を通して筆者のアドレスを突き止め、「どうか力を貸してほしい」と救いを求めてくる要望が殺到している。彼らに代わって発信してほしいというのが主たる要望だ。数百万人のアカウントが封殺されてしまい、沈黙を強要されているという。

「人民中国」は死んでしまったのである。

国務院(政府)の機構も完全の党の手中に――「党政分離」から「党政一体化」に逆戻り

今般の全人代では国務院(政府)の多くの機構が改編されたが、その方向性は一言で言えば、「党政分離」から「党政一体化」に逆戻りしたということができる。1970年代末に改革開放が始まり、1982年に改革開放に沿って憲法が改正された。その時の精神は「党政分離」であり、それまでの「党が即ち政府であり、国家である」という「党政一体化」を抑制するものであった。

これは毛沢東の個人崇拝がもたらした恐るべき災害を何としても阻止しようという精神に基づいたものである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとハマス、ガザ停戦で合意 19日に発効

ビジネス

NY連銀総裁「金融政策はデータ次第」、政府巡る不確

ビジネス

米経済活動、小幅から緩やかに拡大 見通しは楽観的=

ビジネス

米CPI、インフレ圧力緩和継続を示唆=リッチモンド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローンを「撃墜」し、ウクライナに貢献した「まさかの生物」とは?
  • 4
    韓国の与党も野党も「法の支配」と民主主義を軽視し…
  • 5
    【随時更新】韓国ユン大統領を拘束 高位公職者犯罪…
  • 6
    中国自動車、ガソリン車は大幅減なのにEV販売は4割増…
  • 7
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 8
    ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
  • 9
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 10
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」
  • 4
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 5
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 6
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 7
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 8
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 9
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 10
    古代エジプト人の愛した「媚薬」の正体
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中