最新記事

中国政治

習近平国家主席再選とその狙い──全人代第四報

2018年3月19日(月)12時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

腐敗分子を叩いてくれたことに関して満足している人民もいるものの、一方では、大物の党幹部およびその一派が習近平に対して抱く恨みには、尋常でないものがあるだろう。

となれば習近平政権二期目の終わり辺りから、恨みを抱く者たちの不満が表面化する可能性が潜んでいる。三期目がなかったとすれば、クーデターが起きる危険性だって否めない。

反腐敗運動は、胡錦濤政権でも政策を掲げていたが、江沢民派に抑えられて断行できなかった。つまり反腐敗運動は、よほど権力基盤が強固でないと断行できないのである。それを知っていた胡錦濤は、全ての権限を習近平に譲渡して、習近平が反腐敗運動を断行しやすいように協力してきた。

日本のメディアではよく、「習近平は反腐敗の名を借りて政敵を倒し、その結果権力基盤を固めてきた」と言いたがるが、それは全く逆だ。政権基盤が強くなかったら、反腐敗運動など絶対にできない。それは建国直後の毛沢東が証明済みだ。習近平には政権発足当時、政敵がいなかったからこそ反腐敗運動に着手できたのであり、反腐敗を断行したからこそ逆に、政敵が一気に生まれたのである。

それをはき違えてはならない。

したがって、反腐敗運動を断行したが故に生まれてしまった政敵から、習近平自身は自分の身を守らなければならない窮地に追い込まれているわけだ。だから、すぐには退かないですむシステムを創りあげるために憲法を改正したという側面は無視できない。

しかし引退を5年延ばしても10年延ばしても、そのときに恨みを抱く政敵が習近平を倒せばいいことになる。

問題はそこだ。

もし習近平政権第二期が終わる2023年以降の10年間くらいまで現在の職位に就き続け、その間に全国津々浦々、党、軍、そして政府のすべてを自分に従う党幹部で埋め尽くすことができれば、命の危険は免れるだろうという計算がある。

一党支配体制維持のジレンマ

この現象を表面的に見れば「権力争い」に見えるかもしれないが、実態は似て非なるものだ。

一党支配体制が限界に来ている証しなのである。

腐敗を撲滅しなければ党が滅ぶ。ラストエンペラーにはなりたくないから一党支配体制を維持するために反腐敗運動を断行するしかない。

しかし反腐敗運動を断行すれば政敵が増える。政敵が増えれば「身の安全」が侵される。いつ殺されるか分からない。習近平政権は実は、退路がないジレンマの中に追い込まれているのである。

その意味では今般の憲法改正は「習近平自身が殺されないための改正」ということもでき、「そうしてでも一党支配体制を維持するための改正」だと解釈することができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中