プーチン大帝「汚職撲滅」は、見せ掛けだけのイメージ戦略
ロシアでの詐欺・横領被害額は毎年、数百億ドル規模に上る。国内唯一の独立系世論調査機関、レバダセンターが17年発表した世論調査では、汚職横行の責任はプーチンにあると回答した人の割合が67%、政府は「完全に」または「相当な程度まで」腐敗していると考える人の割合は80%近くに達した。
国民の怒りは高まっている。モスクワにあるシンクタンク、経済・政治改革センターによれば、ロシア各地ではこの数カ月間に抗議デモ件数が急増。「社会的対立や労働関係のデモが増加している一因は汚職にある」と、同センターが17年11月に発行した報告書は指摘する。
拍車を掛けているのが、反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイが展開する汚職追及活動だ。
ナワリヌイが設立した反腐敗財団は17年3月、ドミトリー・メドベージェフ首相の不正蓄財を告発する動画を公開。再生回数は2650万回を超えている。動画公開後、ロシアでは抗議デモが繰り返され、17年は1500人以上が逮捕された。
「当局にとっては、汚職との戦いの主役は今も自分たちだと示すことが極めて重要だ」。国際的な汚職監視団体、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)ロシア支部のイリヤ・シュマノフ副理事長はそう語る。「彼らは本気で行動する姿勢を見せようとしている」
大統領選を控えて、その課題は急務になっている。プーチンの対抗馬は事実上皆無だが、政府は正統性を確保するため「投票率70%、得票率70%以上」での勝利という目標の達成に必死。だからこそ「選挙戦中に大量の政治的得点を稼がなければならないと分かっている」と、政治コンサルタントのアバス・ガリャモフは言う。
国民を納得させられず
ロシア政府が、政治腐敗の蔓延とそれが招く批判を懸念するのは今が初めてではない。
11年12月に実施された下院選では与党「統一ロシア」が不正に勝利した疑惑を受け、モスクワでは大規模な抗議デモが行われた。13年にかけて続いた一連のデモは次第に、政府上層部の汚職疑惑に焦点を当てたものに変化。厳正に管理されているはずの政治体制への抗議は、前代未聞の出来事だった。
抗議の嵐を静めたのは14年のクリミア併合だ。愛国主義が盛り上がり、プーチンの支持率は記録的なレベルに達した。
その熱狂が過ぎ去ったとき、政府は再び、国民の間で募る腐敗への怒りに対処することを迫られた。思い付いた解決策が、ガリャモフいわく「地方政府高官を対象に汚職一掃作戦を行い、逮捕者に長期刑を科す」ことだ。