最新記事

ロシア

プーチン大帝「汚職撲滅」は、見せ掛けだけのイメージ戦略

2018年3月17日(土)13時40分
マーク・ベネッツ(モスクワ在住ジャーナリスト)

とはいえ、汚職対策に本気で取り組んでいると国民を納得させたくても成果は乏しい。世論調査では高官らの訴追は単なるジェスチャー、または政界の内紛の結果にすぎないとみる人がかなりの割合を占める。TIのシュマノフに言わせれば「説明責任が存在しないから、当局への信頼も存在しない」のだ。

大統領選が迫るなか、ナワリヌイは政府への圧力を増している。2月上旬には、オリガルヒ(新興財閥)の富豪オレグ・デリパスカとセルゲイ・プリホチコ副首相が贈収賄の関係にあると糾弾した。

コールガールとされる女性を同伴して、ノルウェー沖でデリパスカの豪華なヨットに乗って話し合う2人......。ナワリヌイはそうした映像や画像があることを指摘。「オリガルヒがトップ級の政府高官をヨットの旅に連れていく。これは贈賄行為だ」と非難した動画は、既に500万回以上再生されている。

デリパスカはプリホチコと会ったことを否定しなかったが、贈賄という非難は「とんでもない」と発言。当局はといえば調査に着手するどころか、ナワリヌイのウェブサイトへの接続を遮断した。問題の動画や画像はプライバシーの侵害と主張するデリパスカは、それらを削除する裁判所命令も勝ち取っている。

戦う相手は汚職ではない

デリパスカとプリホチコを糾弾してから約1週間後、ナワリヌイはプーチンに矛先を向けた。不正に得た財産で、プーチンは総額3600万ルーブル(約6800万円)相当の高級腕時計の数々をコレクションしている、と。

この金額はプーチンが12年に大統領に返り咲いて以来、手にした給与の総額とほぼ同じだ。「プーチンは6年分の給与を前払いさせて、全額を腕時計につぎ込んだらしい」と、ナワリヌイは皮肉った。

この告発についてロシア政府は声明を出していない。しかし2月19日に、警察は反腐敗財団幹部のロマン・ルバノフを拘束。違法な抗議活動を組織した容疑で告発されたルバノフは、10日間の服役を言い渡された。

それから数日後、今度はナワリヌイの補佐役であるレオニード・ボルコフが、過去にナワリヌイが拘束された際の動画をリツイートしたとして懲役30日の刑になった。ほかにもナワリヌイの関係者2人が抗議活動関連の容疑で有罪になり、短期の懲役判決を受けている。

ちなみにナワリヌイ自身は今年に入ってから、これまでのところ服役を免れている(昨年は刑務所で2カ月を過ごした)。

ロシア政府の反腐敗キャンペーンは、大統領選を前にしたプーチンのイメージアップ戦略にすぎないとみる批判派にとって、最近の出来事はその新たな証拠だ。オンラインでよく言われるジョークのとおり、「ロシア当局は汚職と戦わずに、汚職と戦う人間と戦う」のだから。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

[2018年3月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 

ワールド

ロシア、クルスク州の完全奪回表明 ウクライナは否定

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁

ワールド

イラン南部の港で大規模爆発、14人死亡 700人以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中