プーチン大帝「汚職撲滅」は、見せ掛けだけのイメージ戦略
とはいえ、汚職対策に本気で取り組んでいると国民を納得させたくても成果は乏しい。世論調査では高官らの訴追は単なるジェスチャー、または政界の内紛の結果にすぎないとみる人がかなりの割合を占める。TIのシュマノフに言わせれば「説明責任が存在しないから、当局への信頼も存在しない」のだ。
大統領選が迫るなか、ナワリヌイは政府への圧力を増している。2月上旬には、オリガルヒ(新興財閥)の富豪オレグ・デリパスカとセルゲイ・プリホチコ副首相が贈収賄の関係にあると糾弾した。
コールガールとされる女性を同伴して、ノルウェー沖でデリパスカの豪華なヨットに乗って話し合う2人......。ナワリヌイはそうした映像や画像があることを指摘。「オリガルヒがトップ級の政府高官をヨットの旅に連れていく。これは贈賄行為だ」と非難した動画は、既に500万回以上再生されている。
デリパスカはプリホチコと会ったことを否定しなかったが、贈賄という非難は「とんでもない」と発言。当局はといえば調査に着手するどころか、ナワリヌイのウェブサイトへの接続を遮断した。問題の動画や画像はプライバシーの侵害と主張するデリパスカは、それらを削除する裁判所命令も勝ち取っている。
戦う相手は汚職ではない
デリパスカとプリホチコを糾弾してから約1週間後、ナワリヌイはプーチンに矛先を向けた。不正に得た財産で、プーチンは総額3600万ルーブル(約6800万円)相当の高級腕時計の数々をコレクションしている、と。
この金額はプーチンが12年に大統領に返り咲いて以来、手にした給与の総額とほぼ同じだ。「プーチンは6年分の給与を前払いさせて、全額を腕時計につぎ込んだらしい」と、ナワリヌイは皮肉った。
この告発についてロシア政府は声明を出していない。しかし2月19日に、警察は反腐敗財団幹部のロマン・ルバノフを拘束。違法な抗議活動を組織した容疑で告発されたルバノフは、10日間の服役を言い渡された。
それから数日後、今度はナワリヌイの補佐役であるレオニード・ボルコフが、過去にナワリヌイが拘束された際の動画をリツイートしたとして懲役30日の刑になった。ほかにもナワリヌイの関係者2人が抗議活動関連の容疑で有罪になり、短期の懲役判決を受けている。
ちなみにナワリヌイ自身は今年に入ってから、これまでのところ服役を免れている(昨年は刑務所で2カ月を過ごした)。
ロシア政府の反腐敗キャンペーンは、大統領選を前にしたプーチンのイメージアップ戦略にすぎないとみる批判派にとって、最近の出来事はその新たな証拠だ。オンラインでよく言われるジョークのとおり、「ロシア当局は汚職と戦わずに、汚職と戦う人間と戦う」のだから。
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[2018年3月20日号掲載]