最新記事

安倍晋三

あめとムチで権力掌握した安倍首相 次期政権の長期安定が困難な理由

2018年3月19日(月)14時31分


あめとムチ

野党が分裂し、民主党政権時代の混乱ぶりが有権者の記憶にあったことも、安倍首相に有利に働いた。民主党はその後、3党に分裂。野党票の分散や、投票率の低迷もあり、安倍首相は3度の衆院選で連立与党を圧勝に導いた。

日銀の超金融緩和策と財政支出を柱とする成長戦略「アベノミクス」により、日本が1980年代以降で最も長期にわたる経済成長を達成したことも、有権者の意識にある。ただ、消費は減速しかねず、賃金上昇も弱いままだ。

この4年で2度解散総選挙に踏み切った安倍首相の決断も、政権トップの座に挑戦するよりも、再選を果たすことに自民党議員の関心を向けさせ、党内の歩調を保つ効果があった。その一方で安倍首相は、公共事業で選挙区の支持者に報いている。

安倍首相は、巧みに「あめとムチ」を使いこなしていると、東大の内山融教授は指摘する。

しかし、情報へのアクセスを制限することによってメディアの批判を抑えたり、官僚への統制を強化したりする首相戦略の一部は、裏目に出つつあるのかもしれない。

自民党内のライバルたちは、今回の「身びいき」スキャンダルを公に批判するなど、威勢を強めつつある。

「安倍首相はメディアに宣戦布告し、メディアは今、復讐しつつある」と、テンプル大日本校アジア研究学科ディレクターのジェフリー・キングストン教授は言う。

安倍首相の「天敵」と言われるリベラルな朝日新聞は、森友学園への国有地売却を巡る、財務省による決裁書類の改ざんを最初に報じた。

「安倍首相は、官僚の自律性にも宣戦布告した。だが私は、官僚が負けるとは思わない」と、キングストン氏は指摘する。

後継首相は短命か

安倍首相の後任候補として名前が挙がっている岸田文雄前外相や石破茂元防衛相には、安倍氏のように官邸の権力を操るスキルを持った側近が周辺にいないと、アナリストは分析する。

そのため、日本の首相が、回転ドアのように頻繁に交代する事態に再び陥ることを懸念する専門家もいる。

第2次安倍政権が発足する前の5年間で、5人の首相が誕生した。1989年─2001年にかけては9人の首相が登場した後に、小泉純一郎首相が5年の長期政権を担った。

「いま安倍首相が退陣すれば、次の首相は2年ともたないだろう」と、コール氏は予測する。「安倍氏は、積極的な首相だ。次の首相は誰であれ、受動的になるだろう」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Linda Sieg

[東京 14日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中