最新記事

ロヒンギャ

ゾウに踏み潰されるロヒンギャ、すみかを追われて感電死するゾウ

2018年3月7日(水)16時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ゾウは「エサ難民」

国連難民高等弁務官事務所(UNCHR)は、ロヒンギャにとってゾウが新たな脅威になる可能性を指摘している。

しかしゾウにとっては、ロヒンギャの避難はとんだとばっちりかもしれない。UNCHRによると、クトゥパロンの難民キャンプはそもそも、ゾウにとって大切な生息地で、およそ40頭のゾウが住んでいるとみられる。ゾウたちは食糧を求めてバングラデシュとミャンマーの国境を越えて移動する。

地元紙ダッカ・トリビューンによると、2017年11月21日~2018年1月22日までで同国チッタゴン管区に生息する野生のゾウ5頭が死んだ。このうち3頭が感電や地雷で致命傷を負ったという。

同紙は、ゾウは生息地を破壊されたことでエサを求めて周辺の地に活動を拡げるのを余儀なくされていると説明している。

ゾウは「生態系エンジニア」や「庭師」として知られる。ゾウが移動して種子をまき散らすことで、植物が発芽するための環境が整う。排せつ物は昆虫の食糧にもなる。ゾウは森林の繁茂に重要な役割を果たしているのだ。

Arakan Times-YouTube


ゾウとの共存かミャンマー帰還か

そんなゾウをめぐる状況は、ロヒンギャの迫害とともに激変した。ミャンマー治安部隊は国境沿いに地雷を埋めたり有刺鉄線を張り巡らせ、ロヒンギャだけでなく、ゾウのルートさえも塞いだからだ。生息地の森はロヒンギャの難民キャンプのために4000エーカーが消失しただけでなく、難民が日々の生活で使う薪が毎日800トン消費されている。

ロヒンギャ難民の一連の被害を受けてUNHCRは、国際自然保護連合( IUCN)とパートナーシップを締結。難民キャンプに監視塔を設けるなどの対策を発表した。これにはIUCNのゾウとの共生に関するノウハウを生かし、ゾウ対応のトレーニングも含まれる。

一方、ロヒンギャたちを故郷に帰還させるプロジェクトも動いている。ダッカ・トリビューンによると、バングラデシュ政府は2月16日、同国に逃れたロヒンギャ難民の帰還第1弾となる8032人分の名簿をミャンマー政府に提出した。

しかしこのプロジェクトは上手くは運ばなそうだ。具体的な開始の時期は不明だし、祖国を逃れたロヒンギャは、その措置を歓迎してはいない。ミャンマーの地元紙ミッジマが、あるロヒンギャ難民のリーダーの声を伝えている。「ロヒンギャへの市民権付与、人権などの権利、破壊された財産と生活への補償すべての要求が認められなければ帰るつもりはない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

IMFと世銀、基本回帰でトランプ政権の信頼得る必要

ビジネス

中国のボーイング機受領拒否、関税が理由と幹部

ワールド

韓国GDP、第1四半期は予想外のマイナス 追加利下

ビジネス

米キャンター、SBGなどとビットコイン投資企業設立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中