最新記事

アメリカが銃を捨てる日

【歴史】NRAが銃規制反対の強力ロビー団体に変貌するまで

2018年3月7日(水)11時58分
パトリック・J・チャールズ(米空軍第24特殊作戦航空団所属歴史学者)、ソーニャ・ウェスト(ジョージア大学法科大学院教授)

俳優の故チャールトン・ヘストンはNRA会長を務めたことでも知られた(会長時代の03年の演説) Reuters

<1871年に設立され、射撃訓練の組織だった全米ライフル協会(NRA)は、いかにメディア攻撃を強める団体に変わったか。本誌3月13日号「アメリカが銃を捨てる日」特集より>

ジャーナリストらが「生徒のことを全く気に掛けず」、米国民の「自由を制限したがっている」証拠だ──。

2月14日にフロリダ州パークランドの高校で発生した銃乱射事件後の報道について、全米ライフル協会(NRA)のウェイン・ラピエールCEO兼上級副会長はそう非難した。同月21~24日に開催された保守派政治家や活動家の年次会合、保守政治活動集会(CPAC)でのことだ。

その数時間後、同じく壇上に立ったNRAの広報担当者デーナ・ローシュは「白人の母親が泣く姿は視聴率を稼げる」ため、伝統的なメディアは「銃乱射事件が大好きだ」と語った。NRAがCPAC開幕前に公開した動画で、報道機関は「視聴率アップと自らの主張の促進」に銃乱射事件を利用している、と批判したのと歩調を合わせた発言だった。

NRAが主流派メディアを攻撃していると知らされても驚きではない。さらに「アメリカの病」を告発する報道への批判は、NRAの専売特許でもない。ドナルド・トランプ米大統領は毎日のようにメディアを嘲笑し、「アメリカ人の敵」呼ばわりしているし、右派ラジオ局の攻撃ぶりはもはや芸術といってもいいレベルにある。

それでもメディアへの敵意をかき立てるNRAの手法は独特であり、しかも実態がよく知られていない。銃所持の権利をアメリカ人の最も大事な権利と信じるこの団体は実のところ、半世紀以上も前に組織的な反メディア姿勢を採用し、結果として銃規制に反対する強力なロビー団体に変貌した。

1871年の設立から40年ほどの間、NRAの一般的なイメージは、銃器教育や射撃訓練を行う組織というものだった。報道機関とはいわば愛憎半ばする関係にあり、射撃や狩猟について肯定的な報道がされれば喜ぶ一方、銃犯罪の記事や銃規制支持の論調が登場したときは会員に行動を呼び掛けた。

初期の対メディア戦術は比較的穏健で、銃の社会的恩恵について記者らを啓蒙しようと訴えた。「無知によって銃と射撃への偏見や不安や反対が生まれ続けるなら、それは私たちの責任だ」と、当時のNRAの出版物は会員に警告している。とはいえさらに踏み込んだ行動もいとわず、必要があると見なした場合は「攻撃的行動」を促して、新聞社などに中傷の手紙や電報を大量に送り付ける作戦に出た。

1962年、著名なジャーナリストのラルフ・マギルが連邦レベルでの銃規制を求める記事を発表した際、彼の元には敵意に満ちた手紙や電報、電話が殺到。「自由を愛する全ての良き市民を侮辱」する記事で、「市民から銃を取り上げようとする共産党の主張とそっくり同じ」と非難する者もいた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中