シリア 弾圧に曝される市民に寄り添うフリをしてきた欧米諸国の無力と敗北
「ヒステリック」と称される爆撃で、ロシア・シリア両軍は、塩素ガスや「樽爆弾」よりもさらに殺傷性の高い燃料気化爆弾を使用している。また「虎」の愛称で知られるスハイル・ハサン准将率いるシリア軍地上部隊が東グータ地方への攻勢を強めている。英国で活動する反体制系NGOによると、26日現在、民間人561人(うち222人が18歳未満の子供)が犠牲となったという。
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外務大臣が述べた通り、この攻勢はアレッポ市東部での戦闘を「モデル」としており、武装集団の戦闘員とその家族の退去を通じた完全解放を狙ったものだ。事実、ロシア(そしてエジプト)は、ラフマーン軍団やイスラーム軍と、シリア政府を仲介し、停戦に向けた折衝を続けている。
東グータ地方の停戦をめぐっては、2017年半ばからシャーム解放委員会の戦闘員の退去が条件となってきた。だが、伝えられているところによると、ロシアは最近になって、この条件を呑んだラフマーン軍団とイスラーム軍への攻撃停止を拒否、彼らの退去(あるいは降伏)を求めるようになっているという。
国連安保理は人道停戦を採択したが、戦況に何の変化もない
東グータ地方での戦闘激化を受け、国連安保理は、シリア全土で少なくとも30日間の人道停戦を実施することを定めた決議第2401号を24日に全会一致で採択した。だが、それは国内の戦況に何の変化ももたらしていない。
決議は、すべての当事者に停戦を求めていた。だが「延滞なき戦闘停止」を呼びかけているだけで、いつ、そしてどのように停戦するかは当事者に委ねられている。しかも「イスラーム国、アル=カーイダ、ヌスラ戦線、そしてこれらとつながりのあるすべての個人と組織」に対する軍事行動の継続は認められ、「テロとの戦い」を根拠に戦闘を行う当事者は戦闘継続を許されている。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣は26日、午前9時から午後2時までの5時間の人道停戦を27日から開始すると発表した。だが、決議採択後も、イスラーム過激派が活動を続ける東グータ地方への攻撃は続けられている。
トルコはバクル・ブズダー副首相兼内閣報道官が「決議はクルド人民兵に対する作戦に影響を与えない」と述べ、シリア民主軍との戦闘を継続している。米主導の有志連合も25日、イスラーム国に対する「テロとの戦い」と称して、ダイル・ザウル県南東部を爆撃し、民間人多数を殺傷した。
東グータ地方に対するロシア・シリア両軍の攻撃を非難し、その停止を強く求めたのは西側諸国だった。メディアでは、無差別攻撃に曝される住民の姿や、地元の活動家や子供の悲痛な声が報じられた。
だが、それだけだった。日本を含む西側諸国の関心や憤りは、トルコが「オリーブの枝」作戦を始めた時と同じように極めて低い。東グータ地方を含むシリア国内で戦闘を停止させ、同地に人道支援を行き届かせることで、どうしたいのかという具体的なヴィジョンが示されていないこと、それが最大の理由だ。「アラブの春」が波及した当初に夢想されていた「独裁」打倒に代わる実現可能な目標は何ら見えてこない。
東グータ地方陥落が時間の問題となりつつあるなか、弾圧に曝される市民に寄り添うフリをしてきた欧米諸国の無力と敗北が、改めて浮き彫りになっているのである。