最新記事

アメリカ社会

銃乱射を生き残った高校生たちに全米から誹謗中傷なぜ?

2018年2月23日(金)16時30分
シャンタル・ダ・シルバ

銃乱射事件の被害者である生徒らに、教師が銃をもてばどうかと尋ねたトランプ大統領(2月21日) Jonathan Ernst -REUTERS

<米フロリダ州の高校で発生した銃乱射事件後、生存者の生徒たちがオンライン・ハラスメントにさらされている。殺戮を目の当たりにして、銃規制を求めているからだ>

米東南部フロリダ州パークランドの高校で発生した銃乱射事件後、銃規制強化を訴えてきた生き残りの高校生たちがオンライン・ハラスメントの被害に苦しんでいる。

極右のコメンテーターや団体、陰謀論の支持者らは、17人が殺害されたマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の生徒たちをこぞって攻撃し、なかには「雇われた役者」「偽物の生徒」と批判する者まで現れた。

「パークランドで起きた悲惨な銃乱射事件の生存者を狙った暴言やハラスメントが横行している」ことは、ツイッター社も公式に認め、対策に乗り出した。偽物呼ばわりされている生存者たちの名誉を守るため、すでに本人確認を始めたという。

「スパムや嫌がらせの報告ツールを使って、今後は悪意のあるユーザーが同じ内容の投稿を複数のアカウントから自動投稿することを禁止する」とツイッターは言う。

2月14日の事件発生後、生き残った生徒らは銃規制強化を求めて集会を開き、遠いワシントンの政治家にも行動を要求してきた。

事件の翌週には政治家や銃規制に反対するロビー団体「全米ライフル協会」(NRA)のメンバーと面会、アサルトライフル(自動小銃)の禁止法案を支持するよう訴えた。上院議員に対し、今後NRAからの政治献金を拒否するかどうかも問いただした。

クライシスアクターとは?

生徒たちの運動は全米に広がっているが、一方でオンライン・ハラスメントやいじめの動きも広がっている。この生徒たちは銃規制という政治目的を達成するために雇われ、犠牲者の役を演じる偽物「クライシスアクター」だと陰謀論者は攻撃する。ドナルド・トランプ米大統領の長男ジュニアもそうした投稿に「いいね」した。

生存者の生徒であるデービッド・ホッグ(17)は2月20日、米CNNのニュース番組に出演し、「自分はクライシスアクターではない」と涙ながらに言った。「僕は事件を目撃し、それを一生背負って生きなければならない生存者の1人だ」

同じく生徒のキャメロン・カスキー(17)は、「NRAの信奉者」から複数の殺害予告を受け、フェイスブックを閉鎖せざるを得なかった、と言った。

右派の政治評論家で映画監督でもあるディネシュ・ドゥスーザは、生存者を嘲るツイートを投稿し、批判を浴びた。2月20日、フロリダ州下院でアサルト銃禁止の法案提出を求める動議が反対多数で否決された結果に落胆する生徒らの写真をツイッターに載せ、いい気味だとコメントしたのだ。

さらに、事件を生き延びた生徒たちの悲しみは「政治的に扇動」された「でまかせ」、とも批判した。最初のツイートから15時間後、彼は一転して謝罪した。「惨劇で友人を失った生徒の気持ちを逆なでするコメントだった。心からお詫びする」

フェイスブックとユーチューブも、でまかせの陰謀論を唱える動画を拡散させたと批判を浴びている。2月21日の朝に再生回数が1位になったユーチューブの動画は、銃規制を求めた男子生徒が「雇われた偽物」とするでっち上げだったが、削除される前に20万回以上再生された。

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中