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韓国人の本音

韓国の一般市民はどう思ってる? 平昌五輪「南北和解」の本音

2018年2月20日(火)18時55分
前川祐補(本誌編集部、ソウル)、朴辰娥(ソウル)

「南北分断」より「南南分断」

南北の格差や北朝鮮の外交的孤立を考えれば、統一への道のりは険しい。そして南北だけでなく、韓国内に存在する「南南分断」もその障害になり得る。南南分断とは、韓国人の世代間の意識の差だ。現実的で個人主義的な若い世代と、善かれ悪しかれ分断への思いが残る中年世代以上の感情は大きく異なっている。

20代や30代の若い世代は、表面的には北朝鮮に対して楽観的に見える。韓国では北朝鮮と共産主義の賛美は国家保安法で禁止されているが、この世代は金大中(キム・デジュン)政権(98年〜03年)の太陽政策の影響もあり、北朝鮮にあからさまな敵意を見せることはまれだ。

「オリンピックを機に、北朝鮮の代表団が韓国政府と対話を始めたことはいいことだ」と、29歳のシン・ジェウォンはソウル市内の書店で語った。「和平プロセスと南北交流が進めば、将来は自分も北朝鮮と文化的なビジネスがしたい。読書が好きなので、文学の側面から携わることができればいい」

太陽政策世代のパクは学生時代、北朝鮮が敵だという教育は受けなかった。彼自身もそうは思っていない。「障害があるとすればアメリカのやり方だ。南北の問題に第三者が介入して、解決を難しくしている」と、パクは言う。

こうした反米感情は若者だけでなく、朝鮮戦争を経験した高齢者も共有している。ソウル市内で漢方薬局を営む薬剤師の金義久(キム・イグ)(75)も、「トランプ政権は北朝鮮問題をビジネス的に考えている。韓国に武器を売り付けており、これでは分断も解消しない」と憤る。

韓国にとってアメリカは庇護者のはずだが、「南北分断」という歴史の悲劇から生まれる被害者意識の矛先は、時にねじれてアメリカに向かう。

一方で、北朝鮮が開発を続ける核とミサイルは、韓国だけでなくアメリカと世界の脅威になりつつある。もしドナルド・トランプ米大統領が先制攻撃を決断すれば、北朝鮮軍による報復で韓国は確実に火の海になる。だが、韓国の若い世代の間で懸念や恐怖は驚くほど共有されていない。

「正直、あまり現実的に考えたことがない」と、20代後半の朴世喜(パク・セヒ)は言う。「外国に行った時も韓国から来たと話すと、北朝鮮との戦争が怖くないか、不安じゃないのかと聞かれる。そう聞かれて、ああ休戦協定しか結んでいなかったんだと改めて認識する」

張有善(チャン・ユソン)(37)も、「そうした状況の中でずっと暮らしているので、慣れてしまっている」と言う。韓国の男性はほぼ例外なく2年余りの兵役に就くが、北朝鮮軍と対峙した経験を持つ彼らの感覚も似たようなものだ。

「北朝鮮はいつも何らかの挑発をする」と、金在浩(キム・ジェホ)(36)は38度線付近のDMZ(非武装地帯)で軍務に就いていた時の体験を語る。「挑発はするけど、実際に攻撃はしない」

180227cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版2月20日発売号(2018年2月27日号)は「韓国人の本音」特集。平昌五輪を舞台に北朝鮮が「融和外交」攻勢を仕掛けているが、南北融和と統一を当の韓国人はどう考えているのか。この記事は特集からの抜粋。記事の完全版は本誌をお買い求めください>

【参考記事】平昌五輪、前半戦の勝者は韓国「文在寅」大統領だ

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