最新記事

朝鮮半島

北朝鮮に帰る美女楽団を待ち伏せしていた「二重脱北者」

2018年2月13日(火)15時40分
ソフィア・ ロット・ペルシオ

北朝鮮に帰る「美女楽団」を国境で待ち構え、韓国当局に取り押さえられた脱北女性(2月12日) Jung Yeon-je-REUTERS

<望郷の念を断ちがたく、北朝鮮に帰国する美女楽団を追いかけてきた脱北女性を、韓国当局は北朝鮮のスパイと言うが?>

2月12日、平昌冬季オリンピックのために韓国を訪れていた北朝鮮の三池淵(サムジヨン)管弦楽団が帰国の途に就こうとしたとき、彼らのバスに一人の女性が駆け寄った。祖国の北朝鮮に帰りたいと広く公言している脱北者だ。

女性はキム・リョンヒという名で、137人の楽団員を乗せたバスが北朝鮮との国境にある南北出入国事務所(CIQ)に着いた時に突然現れた。楽団は前日にソウルで公演を行い、北朝鮮訪問団の政府高官や韓国の文在寅大統領も鑑賞した。

韓国の聯合ニュースによると、キムは、「さようなら、みなさん。私はキム・リョンヒ、平壌市民です」と楽団員に言ったという。「できるだけ早く家に帰りたいです」と言いながら、朝鮮半島旗(統一旗)を振った。韓国政府職員はキムを止め、楽団員の目に触れさせまいとしたが、初めて脱北者を目にしたであろう楽団員たちは戸惑っているようだった。

キムは韓国英字紙コリア・ヘラルドに対し、地元住民の助けで国境エリアに入ることができたと語った。「住民が迎えに来て乗せてくれた。身分証明書があればどこでも問題なく入ることができた」と話した。「できるだけ楽団の近くに行きたかった」

国連の記者会見に乱入

平壌で裁縫師をしていたキムは2011年、中国、ラオス、タイを経て韓国に入った。2015年にCNNに語ったところによると、キムは肝疾患の治療のために中国に行ったが、医療費が高過ぎて払えないことがわかった。韓国に行けば数カ月で稼げると言うブローカーに騙されて韓国に来て帰ることができなくなったという。

だが韓国当局は、パスポート偽造の罪でキムを拘留しながら帰国を認めず、本国へ送還されることを願う北朝鮮の元スパイだと主張する。

国連の北朝鮮人権状況特別報告者、トマス・オヘア・キンタナも、2017年12月、キムに面会している。ロイターによれば、キムは面会の翌日、ソウルで開かれた国連の記者会見に乱入し、帰国したいと訴えて、韓国政府に人権を侵害されていると主張した。

キムは、北朝鮮に住む家族に再会したいと訴え、そのためなら帰国後に苦難に直面しても耐えられると述べた。「(韓国で)生計を立てていけるし、生活に何の支障もない。(北朝鮮に帰れば)暮らしは悪くなる可能性があるし、飢えに苦しむかもしれない。しかし家族はもっと大切だ」と、キムはコリア・ヘラルドに語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、24年12月は2.2%増の424万

ワールド

ロ大統領、トランプ氏との会談に意欲 ウクライナや原

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感1月確報値は71.1、6カ

ワールド

米中外相が電話会談、両国関係や台湾巡り協議 新政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄道網が次々と「再国有化」されている
  • 4
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 5
    電気ショックの餌食に...作戦拒否のロシア兵をテーザ…
  • 6
    早くも困難に直面...トランプ新大統領が就任初日に果…
  • 7
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 8
    「ホームレスになることが夢だった」日本人男性が、…
  • 9
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 7
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中