最新記事

人権問題

米トランプ政権の国連離れ、次の標的は人権理事会だ

2018年1月30日(火)19時00分
キース・ハーパー(米オバマ前政権の人権担当大使)他

スイスのジュネーブにある国連人権理事会の会議場 Denis Balibouse-REUTERS

<離脱をちらつかせて国連を変えさせようというトランプのやり方がいかに有害か、その理由>

ドナルド・トランプ米政権は今年1月、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対する拠出金を半分以上凍結すると発表し、国際機関にまたもや打撃を与えた。

UNRWAは完璧な機関ではないが、1950年の活動開始以来、パレスチナ難民向けに医療や教育などの人道支援を提供してきた。次はどの国連機関がトランプ政権の標的になるのか。国連人権理事会ではないか、と筆者は懸念する。

ニッキー・ヘイリー米国連大使は就任以来、人権理事会を痛烈に非難し、国連改革を掲げる米政府の国連批判の矛先にしてきた。トランプ政権下でアメリカは国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)から脱退し、国連の難民・移民の保護強化をめざす交渉から離脱し、UNRWAへの援助凍結を決定した。

トランプ政権はそれ以前から、アメリカの求める人権保護の基準を満たさなければ人権理事会を離脱する、と脅していた。理事国選出の基準をより厳格にして人権侵害国の参加を困難にするほか、イスラエル批判への偏向をやめるよう要求した。

トランプ政権が掲げる目標自体に問題がある、というわけではない(筆者は前述のどちらの訴えも支持する立場だ)。問題は、離脱をちらつかせて国連を改革させようというやり方だ。

その戦略は失敗するだろうし、人権理事会と人権問題に対する政策両方にとって有害だ。それには5つの理由がある。

1)独裁者や絶対権力者を利する

アメリカが離脱して喜ぶのは世界中の独裁政権だ。2006年の人権理事会設立から、アメリカが人権理事会に初出馬して選出される2009年までの間、人権理事会を牛耳っていたのは中国やキューバ、パキスタンのような人権抑圧国家だった。

だがバラク・オバマ前政権のときにアメリカが理事会に名を連ねると、その強力な外交力のおかげで独裁政権に監視の目が行き届くようになった。もしアメリカが離脱すれば、また独裁者たちが息を吹き返すだろう。

2)人権理事会がうまく機能しなくなる

思い通りにならなければ離脱する、というトランプ政権の戦略は、人権理事会の価値ある取り組みを軽んじることだ。もし人権理事会への参加と支援を中止すれば、そうした取り組みを継続するのは今よりずっと困難になる。

人権理事会の貢献の一例として、北朝鮮の最高指導者・金正恩による自国民に対する人権侵害を非難し、イランの人権状況を調査する国連特別報告者を任命したことなどが挙げられる。

国連安全保障理事会が昨年、シリア政府軍の化学兵器使用に対する制裁決議案を採決したとき、ロシアと中国が拒否権を行使して廃案になった時も、人権理事会は国際調査委員会を設置し、シリアのバシャル・アサド大統領が化学兵器を使用したと、国連機関として初めて認定した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中