最新記事

人権問題

米トランプ政権の国連離れ、次の標的は人権理事会だ

2018年1月30日(火)19時00分
キース・ハーパー(米オバマ前政権の人権担当大使)他

ミャンマーやリビア、アフリカ中部ブルンジでも同様に、政府による人権侵害の責任を追及するための調査委員会を設置した。自国の政府に虐げられてきたLGBTQ(性的少数者)の人権保護を訴える歴史的な決議でも重要な役割を果たした。

これらの取り組みにどれほどの意味があるのか。極めて重要な意味がある、というのが世界の人権機関の評価だ。人権理事会は彼らに希望と正当性を与え、独裁者や殺人者の犯罪行為を白日の下にさらし、抑圧的な政権に政治的な代償を払わせている。人権理事会に批判されると独裁者が猛反発するのはそのためだ。

3)人権理事会に代わる機関はない

人権理事会からの離脱を示唆しているトランプ政権は、もし離脱してもアメリカが世界の人権状況を改善できる国際的な枠組みはいくらでもある、と思い込んでいるようだ。ヘイリーは昨年6月の人権理事会での演説で、アメリカは「人権理事会以外に議論の場を移すかもしれない」と言った。

だが国連の中で、人権理事会に代わる場所を見つけるのは難しい。国連安保理では、ロシアと中国が拒否権を行使する。多数決で議決をする国連総会では票が割れるため、むしろ人権問題への取り組みを妨害することの方が多い。人権理事会はどこよりも環境が整っているのだ。

4)友好国を擁護したければ、その場にいる必要がある

アメリカは2009年に理事国に選出されてからの方が、友好国を擁護するのに成功している。オバマ政権が人権理事会に参加するまでは、イスラエルの人権侵害を非難する特別審議が3年半の間に6回も行われた。だが2009年以降の7年間で、それがわずか1回に減った。

5)人権問題をめぐるアメリカの信用は地に堕ちている

アメリカは人権問題に真剣に取り組む、というメッセージを国際社会に届けるには、人権理事会が絶対に必要だ。人権問題に対するトランプ政権のやり方は脅し一本槍で、むしろアメリカの信用を傷つけてきた。

声高な国連改革も本気とは思えない。人権理事会のことは、米国内で国連に対する不満が抑えきれなくなったときに捧げる生贄ぐらいに思っている節さえある。それでも、希望を捨てることはできない。昨年末からイランで燃え広がった反政府デモを見てもわかる通り、人々の人権を無視する国や世界の末路は不幸なものだ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ空爆で26人死亡、停戦合意へ調停続く

ビジネス

英中銀、金利4.75%に据え置き 3委員は利下げを

ビジネス

ノルウェー中銀金利据え置き、来年3回の利下げ想定 

ワールド

プーチン大統領阻止へ米欧は結束を、ウクライナ大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    遠距離から超速で標的に到達、ウクライナの新型「ヘルミサイル」ドローンの量産加速
  • 3
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「TOS-1」をウクライナ軍が破壊する劇的瞬間をカメラが捉えた
  • 4
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 5
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 10
    アサドは国民から強奪したカネ2億5000万ドルをロシア…
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中