米国の医療関係者向け「死体実習」 会場は高級リゾートホテルの宴会場
世界保健機構(WHO)は、「一般的に死体の場合、生きていた時と比べて大きな感染症のリスクをもたらすものではない」と言う。
安全のため、セミナー主催者は使用する死体について、エイズウイルスや肝炎などの検査を行っていると述べている。
だが結核などの病気は、検査で必ず発見されるものではない。取り扱われる死体の中に、脳組織がスポンジ状に変化するクロイツフェルト・ヤコブ病や、抗生物質耐性菌の感染源となり得るものが含まれる可能性を懸念する医学関係者もいる。
人体を切開すると、病気感染のリスクが高まる、とミネソタ大感染症政策研究センターのマイケル・オスターホルム所長は指摘する。
「死体から大規模な感染症が広がったり、事件が起こったことはまだないと、私は証言できる。だが、それが起こるのは時間の問題だ」と、オスターホルム所長は語った。
医療会議で使われる死体について、B型肝炎に感染していたことをボディーブローカーが報告しなかった事例が少なくとも1例あった。この死体の頭部と頸部は2011年、マサチューセッツ州ケンブリッジのハイアットホテルで開かれた会議に提供された。
会議出席者の感染報告はなかったが、ボディーブローカーのアーサー・ラスバーン容疑者は、医療関係者への詐欺行為と、連邦職員に嘘をついた罪で、1月に裁判にかけられる。同容疑者は無罪を主張している。
ハイアット側は2011年の事件以降も、10件以上の死体を扱うセミナーに会場提供していたことが、ロイターの調べで分かった。
ハイアットの広報担当者ステファニー・ラーデル氏は、ロイターの取材を受け、傘下ホテル向けの「この種の医療訓練」に対するガイドラインの見直しに入ったと語った。また、ホテルの施設利用者には「健康や安全のプロトコル順守」を望むと述べた。
緩い規制
「死体実習」は、脊椎手術から鼻形成術に至る幅広い分野の医師向けの医療会議の一環として開催されることが多い。医師に新商品を試用してもらう場として医療機器会社が開催することもある。
移動実習を行う会社のスタッフがセミナーを運営。そこで実習に使われる死体や、胴体、手、足などの体の部位は、運営会社が自らの献体プログラムや非移植目的の組織バンクを通じて入手することが多い。
外科医は、人体実習の経験を完全に再現できるマネキンやコンピューターシミュレーションは存在しないと言う。「移動実習」の運営会社側も、ホテルや会議場でセミナーを行うことで、ギャップを埋めていると主張する。病院などの恒久的な実験施設を使うよりも、多くの医師に訓練の機会を提供できる、と言うのだ。
だが、それを取り巻く規制は少ない。米疾病予防管理センターの広報官は、人体を使ったセミナーに関するガイドラインはないと述べた。