最新記事

北朝鮮情勢

金正恩がアメリカを憎悪するもっともな理由

2017年12月26日(火)21時00分
トム・オコナー

デミックが語った通り、その後半世紀以上も朝鮮半島の運命を変えることになる境界線の決定は、いい加減なものだった。米国務省のチャールズ・ボーンスティールと、彼の同僚で後に国務長官となったディーン・ラスクは、米ソが合意できる境界線の設定という任務を託された時、米誌ナショナル・ジオグラフィックの地図を引っ張り出し、目に入った北緯38度の直線を選んだ。ソウルがアメリカ側に入っていたからだった。占領地側の事情は何も考慮しなかった。結果的に朝鮮半島の数百万の住民は南北に分断され、対立が悪化し、軍事衝突が起こり、米ソ冷戦下で初の代理戦争へとつながっていく。

分断当初は恒久的な解決のために半島統一を目指す国際的な対話が始まったが、国連がアメリカ寄りの姿勢を強めるにつれ、ソ連は孤立していった。1948年8月、アメリカの意向を受けた南朝鮮の独立運動家、李承晩が韓国初代大統領に就任。対抗して9月、北では抗日パルチザン活動を指揮した金日成が北朝鮮人民民主主義共和国の首相に就任した。両指導者とも、境界線での武力衝突が激しくなるにつれて国内の少数意見を弾圧するなど独裁的な手法が批判された。そして1950年6月、北朝鮮は半島統一を目指して韓国へ侵略を開始した。

殺しまくった米軍

北朝鮮の進撃は当初、韓国を圧倒した。数カ月のうちに、北朝鮮軍は朝鮮半島の90%を制圧した。だが米軍を中心とする国連軍の介入で逆に北の中朝国境まで追い詰められ、10月になって中国が参戦すると再び38度線付近まで押し戻された。戦争はさらに2年近く続き、多くの犠牲者を出したが、戦況は膠着状態のままだった。1953年7月、休戦協定が結ばれた。1945年の南北分断と同じく、この休戦条約も一時的な措置のはずだったが、敵意は一向に晴れなかった。とくに北朝鮮にとっては。

戦いは激しく、双方が相手の残虐行為を非難した。米軍は北朝鮮が支配する地域に63万5000トンの爆弾を落とした。対日戦争で使った爆弾を上回る量だ。3万2557トンのナパーム弾も投下した。米空軍のカーチス・ルメイ将軍は1984年の米紙ワシントン・ポストに、米軍の空爆で「人口の20%を抹殺した」と豪語したほどだ。南北朝鮮で数百万人が殺された戦争で、アメリカには生物兵器を使用した、などの戦争犯罪の疑いもかけられた。その時の恨みは北朝鮮の金王朝3代に引き継がれて今も対米観を歪ませている。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中