孤独なオタクをのみ込む極右旋風
ジュニアスはフィラデルフィアでのイベントの前、オルト・ファーリーたちからオンライン上で脅されていた。「首の骨を折りたい」という書き込みもあった。ジュニアスの個人情報を探り出して、ネット上にさらすことを目的とするフォーラムまで出現した。オルト・ファーリーを狭量なファシストと批判したことが怒りを買ったのだ。
ジュニアスは脅しにおじけづくことはなかったが、白人至上主義者に取り込まれるファーリーたちが増えるのではないかと案じている。「(ファシストたちは)孤独な白人男性に目を付ける」というのだ。
殺害予告まで飛び出した
互いの自由を尊重するのが旨のファーリーたちだが、ことオルト・ライトの思想をめぐってはそうはいかない。
オルト・ファーリーの一員であるヤギのダイアニシャスはフィラデルフィアのイベント前、「サヨク嫌いの仲間たちと会うのが楽しみだ」とSNSに記した。しかし、そうした仲間たちとの接触は、ほぼ会場外で行わなくてはならないと分かっていた。脅迫的な言動を理由に、ダイアニシャスと友人数人は入場を禁止されていたからだ。
ダイアニシャスは105ドルを支払ってアーティストに依頼し、自分の「ファルソナ」(ファーリーとしてのキャラクター)が登場する作品を制作させていた。そのファルソナがヘリコプターから、ジュニアスと2人のファーリーを下に突き落とす場面を描いたものだ。
この作品内でヘリから突き落とされた1人がタスマニアデビルのディオだ。4月のコロラド州デンバーのイベントにダイアニシャスの仲間たちが乗り込むと知ったディオは、「ナチスどもに一発お見舞いするのが待ち切れない」とツイッターに書き込んだ。すると、匿名のファーリーから「おまえが撃たれるほうがずっと面白い」というコメントが書き込まれた。
これ以降、ディオと家族はひっきりなしに脅しを受けるようになった。「レイプして殺してやる」とか、ユダヤ系であるディオが祖父を亡くした後には「ユダヤ野郎が1人減ったぞ!」と書かれたりもした。
そこでディオは、ゲーム愛好家がよく用いるチャットサービス「ディスコード」上のオルト・ファーリーのグループに何カ月も潜入。この夏、そこで交わされた1カ月分のやりとりを暴露した。それによれば多くの発言は人種差別的で、殺し屋を雇ってディオを殺そうと提案するファーリーまでいた。
しかし、このチャットグループのサーバーを管理する有名オルト・ファーリー、通称レン・ギルバートに言わせれば、メンバーの大半は白人至上主義者でもなければ、ナチス思想の信奉者でもない。「オルト・ファーリーとは、ファーリーの中で右寄りの人たちを表す大きなくくりにすぎないと思っている」と、本誌に語っている。