トランプの無策が中国の追い風に
中国は軍事力にものをいわせ南シナ海の実効支配を進める(写真は中国初の国産空母「遼寧」) Bobby Yip-REUTERS
<アジア歴訪でもトランプ政権の政策は不透明。このままでは既成事実化を進める中国の思う壺だ>
11月5~14日のアジア歴訪でドナルド・トランプ米大統領は主に北朝鮮問題と通商問題に集中したようだ。南シナ海の領有権問題で強硬姿勢を強める中国を厳しく批判することは避けた。
その隙に中国は、世界有数の戦略的海域の実効支配を黙々と進めている。人工島に軍事施設を増設し、周辺の国々を犠牲にして南シナ海での軍事プレゼンスを急速に増大させている。
周辺国、西太平洋で影響力を維持したいアメリカ、そして長年アジアの平和と繁栄を推進してきた法に基づく国際秩序にとっては、厄介な話かもしれない。
10月の中国共産党大会で、習近平(シー・チンピン)国家主席は南シナ海における人工島建設を1期目の実績に挙げ、「海洋権益の擁護を効果的に遂行」したと自画自賛。その一方で、周辺国の懸念を和らげようと同海域の「安全な航行」を保障している。
「トランプが北朝鮮問題に気を取られ、かつトランプ政権の政策決定が混乱し遅々として進まないせいで、南シナ海にツケが回っている」と、米外交問題評議会のシニアフェローでジョー・バイデン前副大統領の顧問を務めたイーライ・ラトナーは言う。
中国は近年、南シナ海に一夜にして人工島を建設。某米軍幹部に「砂による万里の長城」を築いていると言わしめた。それに比べれば、最近の進出の衝撃度は薄い。「切迫感がないせいで、今回の歴訪では優先課題にしなかった」のだろうと、オバマ政権のアジア政策特別顧問を務めたユーラシア・グループのエバン・メディロスは言う。
だが専門家によれば、中国は水面下で軍事基地を拡大し、レーダーやセンサー設備、ミサイル格納シェルター、燃料や水や弾薬の広大な貯蔵庫などを建設。着々と南シナ海の軍事拠点化を進めている。
今年7月半ば、ベトナムはスペインの国有石油ガス会社レプソル傘下の自国企業に自国の排他的経済水域(EEZ)内での天然ガスの採掘計画を許可した。ところが中国がベトナムの駐中国大使を呼び付け、中止しなければ軍事行動も辞さないと威嚇。アメリカには頼れないと感じたベトナムは早々に採掘中止を決定した。
「兵器や軍事設備の数の力でフィリピン、ベトナム、マレーシアは締め出され始めている」と、米戦略国際問題研究所のグレゴリー・ポーリングは指摘する。