サウジ突然の政変、その真の狙いはどこにある
――どこか中国と似ている。中国も指導者の主導の下で反腐敗運動を展開しているが、体制そのものが腐敗しているせいで、指導層の家族も含めた誰もが汚職に関わっている。問題は誰が汚職をしているかではなく、当人がどんな地位にあるかだ。
サウジアラビアは縁故資本主義の国だ。特に外国人投資家は、有名な王子や地元の大物実業家と組まなければ仕事ができない。そんなシステムが何十年も存続している。王族とビジネス関係者の間には緊密なつながりがある。今回逮捕された者が裁判にかけられるかはまだ分からないが、そうなったら驚きだ。
――裁判にならないとしたらどうなるのか。
彼らの一部は(名門ホテルの)リッツ・カールトンで拘束されているというから、悪い待遇じゃない。ある程度の時間がたてば釈放され、ほんの少数が起訴されるのではないか。
だがムハンマドが、タラルら高位の王族や重要人物を拘束したのは事実だ。タラルは190億ドル近い資産を持つサウジ最大の富豪というだけではない。世界屈指の大富豪だろう。
――ムハンマドは中東でどんな役割を果たそうとしているのか。とりわけイランをめぐっては攻撃的な構えのようだが。
「味方でなければ敵」というのが彼の態度だ。
――それがまた効果的だ。11月4日には、レバノンのサード・ハリリ首相がサウジ滞在中に辞任を発表した。
サウジアラビアはハリリに対して相反する態度を示してきた。(辞任せよと)圧力をかけたかは分からない。ハリリを暗殺する陰謀があったというが。
ハリリが強い指導者ではなかったこともある。(レバノンのシーア派軍事組織)ヒズボラに十分な対策を取らないと判断して、サウジアラビアはハリリ支持をやめたのかもしれない。
――ムハンマドは一斉逮捕の前にドナルド・トランプ米大統領の上級顧問ジャレッド・クシュナーに相談し、トランプ政権から「承認」を得たとの説もある。
その説のささやかな証拠と言えるのが、アジア歴訪中のトランプが(11月4日に)わざわざサルマン国王に電話して、現代化の動きをたたえたという事実だ。一斉逮捕については何も言っていないが、北朝鮮問題がのし掛かるなかでサルマンに電話をしたのは異例のことだ。クシュナーが実際にサウジアラビアにいて、ムハンマドを支持したという説の信憑性を高める。