ベトナムを襲う急速高齢化の危機
社会の高齢化が進んで労働力が減少すれば、医療費や年金の支出が増えて財政を圧迫する一方、税収やGDPは減ってしまう。まさにコントの予言どおりだが、果たして一党独裁のベトナム共産党に、この危機を乗り切る能力があるだろうか。
政府は25年までに全ての高齢者に健康保険制度を行き渡らせることを計画している。しかし一方で、ベトナムには子が親の面倒を見る伝統があるから高齢者ケアの公的負担は大きな問題にはならないと考えている節もある。
しかし、そんな伝統は急速に消えつつある。主な原因は都市化(年間2.59%の割合で都市人口が増加)と、それに伴う生活環境の変化、つまり両親や祖父母の世代と同居しない核家族が増えていることだ。
もちろん政府も手をこまねいてはいない。例えば男性60歳、女性55歳という定年年齢(公務員は65歳と60歳)の引き上げを検討している。ただし共産党はこの案を今年6月にも検討したが、労働法規の改正には踏み切れずにいる。
定年年齢を延長すれば、その分だけ生産年齢人口を長く維持できるので、政府の社会保障負担は軽くなるだろう。しかし15年に年金納付期間が足りない退職者のための一括給付金を廃止する制度改革を発表したときは、何万人もの労働者がストライキに突入し、政府は譲歩を余儀なくされている。
増税という手もあるが、これにも反発が強い。筆者は数カ月前にハノイに滞在したが、ただでさえ賄賂(地元では「潤滑油」と呼ぶ)の額が増えているのに税金まで上げるのかという不満をよく聞いた。
汚職度はアジアの2位
財務省はガソリン税を1リットル3000ドン(15円)から8000ドン(40円)に引き上げようとしている。政府は「環境税」と称しているが、国民の目には環境保護より役人の私腹を肥やすための増税と映る。しかも増税後のガソリン1リットルの価格は、平均的な国民の1日の稼ぎの6分の1ほどにもなってしまう。
財政は苦しい。公的債務の残高はGDPの約64.7%で、緊縮政策が必要だ。財政赤字も00年にはGDPの5%だったが、昨年は6.5%に増加。政府は20年までに赤字率を3.5%に下げるという目標を掲げているが、実現は難しい。