最新記事

高齢化

ベトナムを襲う急速高齢化の危機

2017年11月8日(水)17時50分
デービッド・ハット

社会の高齢化が進んで労働力が減少すれば、医療費や年金の支出が増えて財政を圧迫する一方、税収やGDPは減ってしまう。まさにコントの予言どおりだが、果たして一党独裁のベトナム共産党に、この危機を乗り切る能力があるだろうか。

政府は25年までに全ての高齢者に健康保険制度を行き渡らせることを計画している。しかし一方で、ベトナムには子が親の面倒を見る伝統があるから高齢者ケアの公的負担は大きな問題にはならないと考えている節もある。

しかし、そんな伝統は急速に消えつつある。主な原因は都市化(年間2.59%の割合で都市人口が増加)と、それに伴う生活環境の変化、つまり両親や祖父母の世代と同居しない核家族が増えていることだ。

もちろん政府も手をこまねいてはいない。例えば男性60歳、女性55歳という定年年齢(公務員は65歳と60歳)の引き上げを検討している。ただし共産党はこの案を今年6月にも検討したが、労働法規の改正には踏み切れずにいる。

定年年齢を延長すれば、その分だけ生産年齢人口を長く維持できるので、政府の社会保障負担は軽くなるだろう。しかし15年に年金納付期間が足りない退職者のための一括給付金を廃止する制度改革を発表したときは、何万人もの労働者がストライキに突入し、政府は譲歩を余儀なくされている。

増税という手もあるが、これにも反発が強い。筆者は数カ月前にハノイに滞在したが、ただでさえ賄賂(地元では「潤滑油」と呼ぶ)の額が増えているのに税金まで上げるのかという不満をよく聞いた。

汚職度はアジアの2位

財務省はガソリン税を1リットル3000ドン(15円)から8000ドン(40円)に引き上げようとしている。政府は「環境税」と称しているが、国民の目には環境保護より役人の私腹を肥やすための増税と映る。しかも増税後のガソリン1リットルの価格は、平均的な国民の1日の稼ぎの6分の1ほどにもなってしまう。

財政は苦しい。公的債務の残高はGDPの約64.7%で、緊縮政策が必要だ。財政赤字も00年にはGDPの5%だったが、昨年は6.5%に増加。政府は20年までに赤字率を3.5%に下げるという目標を掲げているが、実現は難しい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中