アメリカ死体市場の闇 貧困層の善意の献体狙う「ボディブローカー」
最期の無私の行い
ニューメキシコ州アルバカーキーで兄弟と一緒にバスタブや台所カウンターの修理業を営んでいたハロルド・ディラードさんは、2009年の感謝祭の翌日に末期がんと宣告された。
「まだ56歳だった。活動的で健康的だった。充実した人生を送っていたのに、ある夜、一気に奈落の底に突き落とされた」と、ディラードさんの娘、ファラー・ファソルドさんは語る。「父は最期に無私無欲の行いをしたいと思い、献体することを決めた」
ファソルドさんによると、ディラードさんが死の床にあったとき、アルバカーキーのボディーブローカー「バイオ・ケア」の社員が2人を尋ね、科学に献体するという素晴らしい贈り物は医学生や医師や研究者のためになると、熱心に語った。この社員は、ひざ置換手術のトレーニングなど、父親が献体した場合に可能性のある使用例をいくつか挙げたという。
だが、バイオ・ケアに対するファソルドさんの見方はすぐに変わった。父親の遺灰を受け取るのに、約束されていたより数週間も長くかかった。受け取ってみると、父親の遺灰ではないのではないかと疑った。砂のように見えたからだ。ファソルドさんは正しかった。
2010年4月、ファソルドさんは当局から、父親の頭部が医療機関の焼却炉から見つかったと連絡を受けた。そこで初めて、バイオ・ケアが遺体の部位を売っていると知ったのだという。
「私は完全にヒステリックになった」とファソルドさんは言う。「遺体を売ると言ったなら、私たちは絶対に署名しなかった。冗談じゃない。父はそんなことは全く望んでいなかった」
バイオ・ケアの倉庫で、当局は45人の遺体から切断された少なくとも127の部位を発見したことを明らかにした。
「これら遺体は、のこぎりのような粗悪な切削工具で切断されたようだ」と、刑事は宣誓供述書に記している。
バイオ・ケアの経営者ポール・モンタノは、詐欺容疑で訴追された。警察の宣誓供述書によると、モンタノ容疑者は遺体を悪用したことについて否認しており、自身の父親を含む「ボランティア社員5人」でバイオ・ケアを運営していたと刑事に語ったという。同容疑者はコメント要請に応じなかった。
検察はその後、証拠不十分のため、訴追を取り下げた。献体の扱いに対する規制や、最近親者の保護に関する州法もない。
最終的に当局は、ファソルドさんの父親の体の一部を取り戻し、適切に火葬されるようファソルドさんの元へ返した。焼却炉内から見つかったものもあれば、バイオ・ケアの施設内で見つかったものもあったという。
遺族を守るよう法律が改正されていないことに驚いている、とファソルドさんはインタビューで語っている。
「もっと前に何か手を打てたはず。新しい法律をつくることも」と、ファソルドさんはボディーブローカー業界について言う。「とにかく非常に怪しく、悪質だ」
(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)
[ラスベガス 24日 ロイター]
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