アメリカ死体市場の闇 貧困層の善意の献体狙う「ボディブローカー」
葬儀業界と結託
ボディーブローカーは全米の葬儀業界と結託している。ロイターは、ブローカーと相互に利益となるようなビジネス協定を結んでいる葬儀会社62社を特定。こうした葬儀会社は、遺体を提供する可能性のある家族をブローカーに紹介している。その見返りとして、ブローカーは葬儀会社に300─1430ドルの紹介料を支払っていることが、ブローカーの台帳や裁判所記録から明らかとなっている。
一部の葬儀会社は、自社ビジネスの一環として献体を受け付けている。オクラホマ州では、葬儀会社の経営者2人が新興のボディーブローカーに65万ドルを投資していた。またコロラド州では、家族経営の葬儀会社が、同じ建物内で遺体を切断して販売する会社を経営していた。
献体の切断や使用、あるいはドナーの最近親者の権利に関する規制を設けている州はほとんどない。遺体や臓器は何度も売買されたり、貸し出されたりしている。その結果、ドナーの遺体がどうなっているかを追跡することは難しい。まして尊厳をもって遺体が扱われているかは知る由もない。
連邦衛生委員会は2004年、政府に業界を規制するよう求めたが不調に終わった。それ以降、少なくとも1638人の献体から得られた2357個以上の部位が悪用され、冒とくされていることがロイターの調べで明らかとなった。
この数字は、裁判所や警察の記録、破綻したブローカーやブローカーの内部文書に基づいている。業界が野放しであることを考慮すれば、実際にはもっと多いことはほぼ間違いない。
「悪用」の例としては、ドナーや最近親者の同意なく遺体が使用されたり、遺体の使用目的について誤解を招く説明を受けていた例があった。また遺体そのものついても、医療器具ではなくチェーンソーで切断されたり、不衛生な環境で部位が保管されたせいで腐敗したり、あるいは、適切に火葬されずに医療現場の廃棄物焼却炉に捨てられたりしていた場合があった。
ほとんどのブローカーは、ビジネスの中身について独特の言葉を使う。遺体の部位のことは「組織」と呼ぶ。また「ボディーブローカー」の名称を極度に嫌がり、「非移植目的の組織バンク」と呼ばれたがる。
ブローカーのほとんどは、遺体を「売って」はおらず、サービスの「料金」を請求しているだけだと主張する。しかしそのような主張は、ロイターが入手した他の文書と矛盾している。ブローカーが金銭的価値を献体に付していたことが、破産裁判所への申請に明確に記されている。
昨年12月、アリゾナ州のブローカーに提供された20体以上の遺体が、ドナーや最近親者の同意なく米軍の爆破実験に使われていたことをロイターは報じた。一部のドナーや遺族は軍の実験に使われることに対し、同意書で明確に反対していた。遺族が2012年と13年の実験で使用されたことを知ったのは、軍からではなく、記録を入手したロイターの記者からだった。
米国で現在活動しているボディーブローカーの数を考えれば、施設への定期検査やドナー同意書の確認は、政府にとってそう大きな負担ではない、と専門家や業界に詳しい人たちは指摘する。
「透明性やトレーサビリティー(追跡可能性)、権限について統一された基準にのっとって業者が遺体を集め、流通させ、使用することを義務付ける法律を想定することは難しい課題ではない」と、ニュージャージー州の弁護士、クリスティーナ・ストロング氏は語る。同氏は、ほとんどの州が概ね採用している臓器移植に関する基準の共同作成者だ。
だが、地域や州や国家レベルで一貫した法律や明確な監督当局がないことから、「責任者不在」だと、ニューヨークにあるイェシーバー大学傘下のアルバート・アインシュタイン医科大学で解剖学教授を務めるトッド・オルソン氏は指摘。「誰も見ていない。この国では、人の頭を規制するより、レタスの生産数を規制している」